今年公開される外国映画は、かなり面白い作品が続く。ここ数か月で見た中で選りすぐりの秀作、傑作、快作を紹介したい。
先ず、秀作ベルギー映画「トリとロキタ」。
監督はベルギーを代表するダルデンヌ兄弟。脳天にガ―ンと来るくらい衝撃的。アフリカからブリュッセルにやってきて、この地で、お金を稼ぐために大変な生き方をしている17・8歳くらいの女の子と、10歳くらいの少年の話を描く。
血の繋がりはないが女の子ロキタと男の子トリは姉弟であると偽り、ブリュッセルでビザを申請しようとしている。多額のお金が必要らしく、危ない麻薬の運び屋をしてお金を稼ぐ。
その元締め(?)レストランのコックは二人を使い、ロキタに対しては、性奉仕までやらせている。
後半、ロキタは、もっと効率のいい仕事をしようと、郊外の廃屋に作られた麻薬栽培場に寝泊まりしながら、大麻を栽培する。世界との唯一のつながりである(トリとのつながりでもある)スマホを没収された状態だ。
人物を突き放したような、苛烈すぎるほどのリアルさには、見ていて、もう首を垂れるしかない。二人を知っている大人の同胞がこの二人を助けるかというと、全くそんなことはなく、アフリカからブリュッセルまで連れて来た交通費や手間賃を請求する。
トリは小柄な少年だが結構敏捷である。自転車にもスイスイ乗る。連絡の取れなくなったロキタを探しに行く。
さて、この映画が素晴らしいのは、単に、悲惨な話になってはいないのだ。自分の知らなかった世界が描かれているだけでなく、「冒険映画」的な要素があり、スリリングで、「映画的」に非常に引き付けられてしまうところがいいのだ。
ラストシーンは、まことにあっけない、言わばハードボイルドな終わり方だが、涙がこぼれるのを禁じえなかった。
アメリカ映画「TAR/ター」は傑作で怪作。なかなか重厚で劇場で見るにふさわしい映画だった。天才的女性指揮者の話で、オーケストラの演奏シーンが出て来るし、舞台となるベルリンの街やアジアなど、外国の風景も、大きなスクリーンでこそ引き立った。
主役の女性リディア・ターを演じるケイト・ブランシェットが役に成りきりと言うか、存在感抜群だ。前半の彼女には威厳と自信がみなぎる。ジュリアード音楽院では授業中、性差別だと言ってバッハを認めない学生をやり込める。レズビアンで同性と共に暮らし小さな養子を引き取り、その子の学校のイジメの問題も対応する、何でもこなすクールな女性だ。しかし、段々と不穏なことが起きて行き、しょっちゅうメンタルの薬を飲み、イヤな夢も見出す。彼女の苦しみが続く。
晴れ舞台のマーラーの演奏の時に憔悴してしまうし、オーケストラの団員に暴力を振るう。こういう役は、肉食系、ゲルマン系攻撃顔の(?)ブランシェットにぴったりだ。
後半の展開に驚き、何だか2本映画を観たような気分になる。意図的に説明を少なくしてあり、ミステリーの様相を帯びてくる。最後は急ぎ足で端折った感もあり、よく分からぬところも出て来る。しかし惹きつけられる。
好きな映画をもう一本! お勧めの快作はアメリカ映画「レッド・ロケット」である。めちゃんこ面白かった! 今年の洋画マイベストを、以前紹介した中国映画「小さき麦の花」と争うのではないかと思うほど(タイプが全く違うが)。
金が無くなりテキサス州にやって来て別居中の妻の実家に転がり込んだ、いい加減な性格の自己チュー中年ダメ男が、ドーナツ店でバイトする18歳直前の高校生の女の子と懇ろになる。奥手と思っていたこの子も結構ススンでいる。セックスシーンもバンバン出てくるし、人物は存在感あるし演出もテンポ速い。映画のセンスがとてもいい。
撮影も冴える。石油の工場がバックに立ち並ぶショットが何回もある。主人公はこの街で、スイスイと自転車を乗り回す。
一つだけバカバカしくも面白かったところを書くと、主人公が夜の街を素っ裸で逃げるシーンがあり、その時のブラブラする体の一部が長いこと!それもそのはず、この男の前職はAV男優なのだ。(CGかもしれない)。
この映画、軽薄な人間を活き活きと描くだけの映画でなく、トランプが当選する直前の南部のどよんとした雰囲気も上手く伝えていると思う。ほとんどの人間が無気力で下品。やっぱり、人間と時代が描かれている。故に自分にとっての快作なのだ。
(by 新村豊三)