残念、期待外れの日本映画「怪物」。坂本龍一の映画音楽と「天命の城」。

是枝裕和監督の新作「怪物」は、残念ながら、あまり評価できない作品だった。「万引き家族」も「ベビーブローカー」も好きなのだが、今回はそうは行かなかった。

「怪物」監督:是枝裕和 出演:安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢ほか

「怪物」監督:是枝裕和 出演:安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太ほか

長野県諏訪市にある諏訪湖のほとりの小学校に通う息子が担任から暴力を受けていると言って、シングルマザーの母親(安藤サクラ)が学校に訴える。その事件を、母親の視点、担任の視点、最後に息子の視点から描く構成である。
見ていて何かよく分かんないところがちょこちょこ出てきた。「息子の視点」が出たからと言って、成程、合点が行ったという感じを持てなかった。それに、その息子視点で描くパートが意外や盛り上がらないのだ。

テーマとして、大人の世界には汚い打算がいろいろあるけど、大雨の後に、子供は「水で浄化されて成長する」と言いたいらしいけど、そりゃなんだ?と思う。少しも感銘に至らない。
最大の不満は、この映画、視点が3つあるひねった構成を取り払えば、全体としては今の日本によくある話を重ねただけで新味が全くない。この脚本のどこがいいのだろう?(カンヌ映画祭で、本作品は脚本賞を受賞しているのだが)

疑問を感じたところを幾つか書く。事件のことをよく調べもしないで、あんな簡単に、校長(田中裕子)や教頭が謝るとか、あんな曖昧に「担任の指導がよくなくて」しか言わない、なんてないだろう(私、一応ガッコウの教員でした)。
担任(永山瑛太)が、教室でゴミを散らしてあったのを見て、周りの生徒に聞きもしないで、すぐに安藤サクラの息子を責めるなんてないだろう。それになあ、田中裕子、ミスキャストじゃないか。音楽の先生だけど、子供にツライことあれば、楽器を吹いて我慢しなさい、と教えるの?あんたが、まず、ウソをやめろと言いたかった。校長って、そんなにしがみつきたい身分なの?
悪口を並べたが、日本映画界の海外で通用する監督として是枝氏には期待が大きいが故の行為だと思ってほしい。

唯一良かったのが、映画の最後に流れる美しいピアノの曲だ。映画が終わると、作曲家坂本龍一氏の逝去を悼みます、といった文字が出た。そう、この映画は坂本龍一の最後の映画だったのだ。正確に言うと、病床にあったので、普通の映画音楽作りではない。映画と離れて依頼して作ってあったピアノ曲を映画に入れたのである。しかし、中々に調和していると思う。

坂本龍一氏は、1980年代初頭のYMOのピコピコ音楽から始まり、ずっと音楽家として活躍した。映画音楽を作曲しただけでなく、「戦場のメリークリスマス」(1983年)「ラストエンペラー」(1988年)では俳優として出演している。正直言うと、台詞の言い回しが固いなあと思ったが。とにかく何かと話題を呼んだ人だった。
坂本氏が映画音楽を付けた映画のリストを見ていてびっくりしたのは、その幅の広さだ。いろんな国の監督と組んでいる。スペインもあれば韓国もある。

大好きな映画を2本! スペインの鬼才アルモドバル監督と組んだ「ハイヒール」(1991年)は快作。俳優である母、その元恋人と結婚したTVキャスターの娘の愛憎を描く。娘の夫が殺されてしまい独身の判事が調査を開始する。娘はTV局のニュースの放送中に、自分が夫を殺したと告白する…美も醜も叩きこんだ濃厚でごった煮のような強烈な作品だ。坂本の映画音楽は妖しさ、情熱、活力、叙情、悲哀などが横溢し、完璧だと思う。

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隠れた大傑作は2017年の韓国映画「天命の城」。1636年の朝鮮と清の戦いを描いている。清軍に攻め込まれ、朝鮮の王(パク・ヘイル 好演)は都を捨て山城に立てこもる。清軍に取り囲まれ、大臣たちの意見も対立する。その朝議(言わば御前会議)の議論が面白い。刃のような言葉のバトルであり、臣下の発言がそれぞれ一理あり若き王は苦悩する。和平派のイ・ビョンホンも、主戦派のキム・ユンソクも魅力的だ。

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外で厳寒に耐える兵士の描き方、激しい戦闘の描き方、お城の内部の美術、衣装、撮影、全て素晴らしい。清側の人々が実際に満州語を話すのもリアリティを与える。ファン・ドンヒョック監督は脚本も執筆。彼にこそ脚本賞をあげたい位だ。彼はやがてネットフリックスの名作「イカゲーム」を製作することになる。

ラストの音楽は、切々と朝鮮国の哀しみを表して見事である。エンディングでタイトルロールに、음악(音楽) SAKAMOTO RYUICHIと出た時、胸熱くなった。

(by 新村豊三)

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