今年は、フランス映画の秀作・佳作の公開が相次ぐ。これまでうっかり紹介の機会を逸してきた。今回は、公開中の新作と、2本の今年の秀作を取り上げる。
まず、現在公開中の「ダンサー イン Paris」。監督のセドリック・クラピッシュは、2021年1月10日の回でも紹介したが、等身大の若者を丁寧に描き爽やかな後味を残す作品が多い。
パリのオペラ座で踊るヒロインのエリーズは公演中に足を怪我してしまい、回復に2年ほどかかると診断され挫折感を抱く。田舎のブルターニュにある、運動や歌唱などの活動のための合宿施設で、料理のアシスタントとして働き始める。そこに、コンテンポラリーダンスの奇才振付師ホヘッシュ・シェクター(実在)率いるグループがやってきて、その練習風景を見るうちに自らも参加してその魅力に目覚め、再起していく。
まあ、予想通りの展開だが、職人芸と言いたい程、テンポがいいし、いろんなドラマの要素が入っている。それは厳格でダンスに理解を示さない父親との関係、新しい恋人との関係などだ。沢山入っている分、やや掘り下げが薄いけれど。補って余りあるのは、クラシックだけでなく、コンテンポラリーダンスが素晴らしいこと。圧倒されたと言っていい。集団の踊りにはエネルギーを感じるし、何より古典のクラッシックバレーより、伸びやかさと言うか自由さと心身の解放が感じられる。尚、モダンバレー経験者女性3人が、部屋の中で、モダンバレーを踊るシーンも新鮮で印象的。
ヒロインの女性は体も柔らかく、足がスラリと伸びている。実際に、パリオペラ座で踊っている現役ダンサーだそうだ。
パリの風景も田舎の風景も映り、得したような気分になる。途中、恋愛好きフランス人の映画だからか、誠に人間くさい、性に関する大らかなシーンもある(場内、一人で笑っていた)。
さて、6月に見て、なかなかいいなあと感じたのは、アニメ映画版「プチ・二コラ パリがくれた幸せ」である。「プチ・二コラ」とは、50年ほど、フランスで長く愛されている人気の児童書(絵本)だ。
作者は二人、ストーリーを考える原作者ルネ・ゴシニと、絵を描くジャン・ジャック・サンペ。ゴシニは1977年に亡くなるのだが、それを踏まえて、このアニメ映画では、サンペと漫画の主人公ニコラ君が登場し、作家二人の人生や、小学生ニコラ君の学校生活(男子校だ)、夏の臨海学校、隣の女の子との遊びの様子などが描かれる。
絵は水彩的タッチで淡いのだけど、時々ここぞという場面ではカラフルできらびやかだ。場面展開も自由自在。音楽もジャズありシャンソンありで大変愉しく、面白い。特に若者がパリにやって来て、ミュージカル風になるところは、こちらもウキウキした。舞台はフランスの田舎、都会の巴里、そしてニューヨーク。いろんな街が描かれ、それぞれ興味深い。
原作者に暗い過去があることにビックリした。フランス人の負の一面が分かりこの国の理解が深まる。アニメなので万人にお勧めではないが、パリ好きならきっと楽しめる、輝く小品。朝日新聞の記事によれば、高畑勲監督の「ホーホケキョ となりの山田くん」にインスパイアされたとのこと。
新宿の劇場では、一つ前の席にフランス人らしき親子が座り、40歳くらいのパパが小さな娘に時々解説らしきものをしているのも良かった。お父さん、「プチ・二コラ」のファンなのだろう。
最後は、4月公開の「午前4時にパリの夜は明ける」。1981年の社会党政権が樹立された(ミッテラン大統領)の時代。夫が家を出てしまい、子供二人が残されシングルマザーになったシャルロット・ゲンズブールが、それまで仕事をしたことが無かったのに、夜、ラジオ局で勤務することになる。まず、リスナーからの電話を受ける係からスタートする。その彼女の新しい生き方を、家族との関りを含めて、描いていく。
淡々と描くが、話がいい。ラジオ局の世界を知ることが出来る。パリの風景を捉える撮影がいい。当時のフイルムが時折インサートされるのがいい。人物たちは映画好きらしく映画館へ行く。リヴェットの「北の橋」や、ロメールの「満月の夜」が映る。そこが映画ファンには嬉しい。
記憶に残る洒落たシーンがある。シャルロットは、昼間は図書館に勤めているのだが、よく本を借りに来る男に「これが最初で最後のお願いだ。一緒に一杯つきあってくれ」と誘われる。すると、もう、その日のうちに出来ちゃっている。これが人生を愉しむフランス流か。何というか、自然ではあるが、早いなあと、ビックリ。
(by 新村豊三)