映画の新刊「食べて、ふかして、飲みほして」と往年の映画「さらば友よ」

映画評論家の野村正昭さんが3月に「食べて、ふかして、飲みほして」というタイトルの素敵な本を出された。「ふかして」というのは煙草をふかすということ。すなわち、この本は、野村さんが「映画と嗜好品」というテーマで、JT(日本たばこ会社)が出す「TASK MONTHLY」という月刊誌に2020年4月から2024年3月まで月1回連載したエッセイを加筆訂正し、巻末に柄本明さんとの長い対談を収録したものだ。

食べてふかして飲みほして

Amazonで見る

50本以上の映画が紹介され、たばこ、コーヒー・お茶、食べ物、お酒などのアイテムが映画の中でどう効果的に使われているか紹介されている。
タバコがテーマの「さらば友よ」(1968)から始まり、香水の「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」(1992)までエッセイが掲載。映画の年代順で言うと、1937年の「舞踏会の手帖」から昨年の「BADLANDS バッド・ランズ」まで。
非常に内容が新しく、ロバート・ダウニー・Jrには「オッペンハイマー」でアカデミー助演男優賞、おめでとうございます、という記述まである。

これが、とても読みやすい文章で、映画のポイントの解説、嗜好品の蘊蓄、そして映画ファンも知らないと思われる(自分はそうだった)ウラ話が、バランスよく語られるのがいい。
例えば、タバコ編の「カサブランカ」(1942)では、ラストの空港のシーンの飛行機がはりぼての小さな模造品しか用意できなかったので、飛行機を大きく見せるために、低身長症の人を警備員にして飛行機の周囲を走り回らせたとか。

お酒編で出てくる「お熱いのがお好き」(1959)では、モノクロ映画にした理由が、主役二人の女装のメイクアップが薄いとゲイに見える可能性があるし、濃いとドラァグクイーンのように映るのを懸念したから、とか。
「それから」(1985 森田芳光)では、「ラムネ」の語源はレモネードが訛ったであるとか、「欲望の翼」(1991)では「コーラ」はもともとコカインが入っていたとか、へえと思う話ばっかりだ。
一番驚いたのは「男はつらいよ」のメロン論争のところで、日本の「アンデスメロン」の語源が原産地「アンデス」ではなく、「安心(アンシン)ナンデス」から来たという記述。
それに、それぞれの映画に付く宮崎祐治の絵が、よく似ていて愉しい。

ダメ押し的に面白いのは、俳優柄本明氏との軽妙な対談で、三国連太郎や相米慎二など錚々たる映画人や最近の映画の事が縦横に語られて、これまた楽しい。例えば、野村さんが最近好きなのは三宅唱の「夜明けのすべて」で、「青春ジャック」も悪くない、と発言される。

通勤中、何日も何日も電車の中で読んで楽しい時間だった。僕と同い年で、毎年1000本映画を見るという(!)野村さんには感謝したい。
野村さんは中2の時から映画を沢山見ているのがスゴイが、先ほどちょっと触れた「さらば友よ」も、その中2の時の公開である。

「さらば友よ」監督:ジャン・エルマン 出演:アラン・ドロン チャールズ・ブロンソン他

「さらば友よ」監督:ジャン・エルマン 出演:アラン・ドロン チャールズ・ブロンソン他

好きな映画を一本! この「さらば友よ」は、貴公子のようなフランス人俳優ドロンと、男くさく野性的なアメリカ人俳優ブロンソンが共演し、ブロンソン人気が生まれたフランス映画である。
アルジェリア戦争から帰って来た医師のドロンは、亡くなった親友の恋人に頼まれて、大きな銀行の地下にある金庫破りを試みる。そこに偶然、帰国の船が同じだったアメリカ人傭兵ブロンソンが居合わせるが、金庫室の鍵が閉まってしまい、二人は部屋に閉じ込められる。しかも、金庫のロックの10万通りある数字の組み合わせを一つ一つ手作業で試みて開けると金庫には何も入っていない。
二人は上半身裸になり、脱出の穴を作るべく必死で壁を叩いてゆく。何とか通気口から脱出すると、警備員の死体が転がっている。

そこから後の展開が素晴らしい。二人は別々に逃げるも、ブロンソンは警察に捕まってしまう。ドロンは思わぬ犯人を突き止める(その発見の仕方が面白い。金庫の数字が、ある歴史的事件の日付と同じなのだ。このシナリオは真に上手い)。
ドロンとブロンソンはお互いを裏切らないために、警察の取り調べでも二人は相手を知らないフリを続ける。

ラストシーンが見事である。事件が解決した後、警察の廊下で二人が再会する。ブロンソンが手錠をされたまま煙草を一本手に持ち歩き始めると、ドロンがマッチを擦り、その火をすっと差し出し、ブロンソンは旨そうに吸って煙を吐き出す。お互いに一言も喋らず別れる。このシーンは痺れるほどにカッコいいのだ。

(by 新村豊三)

ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。エッセイ・小説・マンガ・育児日記など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内> <公式 Twitter

スポンサーリンク

フォローする