版画とちいさなおはなし(33)

まひるの月

馬にまたがった将軍の像は、その街のシンボルだった。

太陽がギラギラと照りつける夏の日、馬の上から将軍がいなくなった。
街の歴史愛好家がそれに気づき、数人の仲間と共に将軍の足跡を追った。
足跡は道を横切り、向かいの建物に入って、空へ伸びる階段を上っていた。

あまりにも暑いので、街にはほとんど人がいない。
見上げると、真っ昼間なのに月がくっきりと出ている。
むかし彼が戦った敵に似ているのだ、と誰かが言った。
月が? と別の誰かが聞き返した。

何もかもが奇妙だった。

(版画・服部奈々子/おはなし・芳納珪)

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