〈赤ワシ探偵シリーズ1〉フロメラ・フラニカ第九話「シャトル」

コーヒーを吹きそうになった私に、レオネは、水星人の妻の花恵とのいきさつを話した。

レオネは幼く見えるが、起業して自分の会社を持っている経営者だった。
花恵とは大学で出会い、親友になった。しかし卒業後は、レオネは金星で事業を起こし、その間に花恵は結婚し、お互いに忙しい日々が続いて、しばらく手紙のやり取りだけになっていた。
「金星で起業」は、成功を夢見る若者の合言葉のようになっているが、実際にやるのは並大抵のことではないだろう。

レオネにはビジネスパーソンとしての才覚があったらしく、事業は軌道に乗った。さらにあちこち営業して拡大するために、中古のシャトルを購入した。
そのシャトルで先日久しぶりに帰郷した。じつは、その少し前から、花恵に出した手紙の返事がこなくなっていたので、心配になったのだ。レオネは、花恵が水星人と暮らす家を訪ねたが、使用人に「奥様は外出中です」と告げられ追い返された。

「そのとき、何かおかしいと直感したので、家に忍び込んで調べてやろうかとも考えたわ。だけど、ガードが固くて侵入できなかった。そうしたら次の日、赤ワシに運ばれる水星人の噂を聞いたのよ。あとはあなたも知っての通り」

私はふうむと唸った。保護色の能力があると、他人の家に忍び込もうとするほど大胆になれるのか。レオネの事業がうまくいっている理由は、この大胆さにあるのかもしれない。

私が感心していると、レオネは自信たっぷりに続けた。

「あなたの調査は、花恵がいるかもしれないコロニーへ行くための資金が不足して、行き詰まっている。そこで私がシャトルを提供する。そのかわり、私もそこへ連れていって。私だって、花恵の無事を早く確認したいもの」
「……しかし、きみが本当に花恵さんの友人だという証拠は?」
「さすが探偵、疑り深いのね」

レオネはにやりとして、ポケットから、今の身分証と昔の学生証、それと、花恵と一緒に写った数枚の写真を取り出した。

「用意がいいな」
「花恵がいなくなったことがはっきりしたら、探偵に依頼しようと思っていたから」

彼女は「探偵」とだけ言った。「赤ワシ探偵」ではなく。まあいいか。

私はレオネの申し出を承諾した。私たちは探偵社を出て、レオネのシャトルが置いてある宇宙港へ向かった。

宇宙船は、公共のものでも個人のものでも、立体都市を構成する街塔の一番上に置くことが決まっている。
私たちは、高層階行きのエレベーターに乗った。
ガタゴト音を立てる鳥かごのような低層階用エレベーターとはまったく違い、全面ガラス張りで、音もなく上昇する。目の前にあるいくつもの街塔が、どんどん下に流れていく。上に行けば行くほど、濁った空気は透明に、灰色のでこぼこの壁は白くツルツルになっていく。

屋上の発着場に到着すると、レオネは壁のボタンを押して、自分のシャトルを呼び出した。
あらわれたシャトルは、大きさといいデザインといい、なんというか、とても感じのいい機体だった。彼女が堅実に、かつ楽しんでビジネスをしていることは、このシャトルを見てわかった。

私たちはシャトルに乗り込んだ。
コードネーム「フロメラ・フラニカ」の研究が行われていた、もしかすると今も行われているかもしれないコロニーへ向けて、シャトルは出発した。

挿絵:服部奈々子

挿絵:服部奈々子

(第十話に続く)

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