〈赤ワシ探偵シリーズ1〉フロメラ・フラニカ第十話「軌道上へ」

「花恵さんと『フロメラ・フラニカ』との関わりに心当たりは?」

快適な助手席のシートに収まった私は、操縦席のレオネに話しかけた。
シャトルはすでに宇宙空間に出ており、サイドの窓から青い地球が見える。
問題のコロニーを見つけてドッキングするまでは、あと数時間かかる予定だ。

挿絵:服部奈々子

操縦桿を握ったレオネが答えた。

「わからない。花恵の夫は、不動産で財をなした成金だから、軌道上で行われている軍事研究に関わりがあるようには思えない。でも、そういえば彼女が大学のときに、どこかの博士だか教授だかのアシスタントのバイトをしているって言ってた。研究内容は秘密だから喋れないとも」
「なるほど。……水星人は成金なのか」
「そうよ。ちょうど大学を卒業するころに、花恵の実家が事業に失敗してお金が必要になったの。それで無理やり結婚させられたのよ。かわいそうな花恵……」

レオネは言葉を失ったようになり、ただまっすぐに前を見つめた。

「ふむ。では花恵さんは、水星人が嫌で逃げ出したのか。もしかしたら、本当はその博士だか教授だかと結婚したかったのかもしれないな」
「それは絶対に違う!」

突然レオネが大声をあげた。私は驚いて、手に持っていた『マルタの鷹』の古い文庫本を落としてしまった。
レオネは、はっと息を飲んで、とりつくろうように髪をかきあげた。

「ところであなた、武器は持っている? 相手はマッドサイエンティストかもしれないんでしょう?」

私はレオネの横顔を見ながら、『マルタの鷹』を拾い上げた。
それから、トレンチコートの中に手を入れ、肩に装着したホルスターから万能銃を取り出した。

「安物だが、長年の相棒だ。君の武器は?」

そう言った途端、手から万能銃が消えた。
長い舌で銃をからめとったレオネが、不敵な笑みを浮かべていた。この舌が武器というわけだ。

「銃を返していただけませんかね、お嬢さん」
私がそう言うとすぐに、レオネはしゅるしゅると舌を伸ばした。銃はもう一度、私の手に収まった。

「その呼び方はポリティカル・コレクトネス(※)に反するわね」
「おや、自分のことを『小娘』だと言っていなかったかね」
「自分で言うのはいいのよ」
「そういうものかね」

会話はそこで途切れた。
私は、『マルタの鷹』を開いて読み始めた。これもほぼ暗記しているのだが。特に、サム・スペードが夜中に電話を受けてから煙草を吸う場面は、何度読んでもしびれる。

本を読み終わるころ、シャトルはコロニーに到着した。

安物の万能銃とレオネの舌。果たして、それだけで太刀打ちできるような相手なのだろうか?

※中立的表現

(第十一話に続く)

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