〈赤ワシ探偵シリーズ2〉ニフェ・アテス第三話「考古省」

白銀の迷い猫とジョーの素晴らしいセッションを聞いた翌日のこと、赤ワシ探偵社に依頼人がやってきた。
ぐったりするような残暑の日中に、ダークスーツをきっちり着込んでネクタイを締めた、だいぶ人間寄りの狐人(きつねじん)だ。
差し出された名刺には「考古省 サラク・ギハ」とあった。

「考古省というと、都市の下の方を掘ったりするお仕事ですかな」

そうたずねながら、私は首の後ろが涼しくなるのを感じた。立体都市であるトキ市は、いくつもの街塔(がいとう)が無数の歩廊で連結された構造になっている。街塔はエレベーターで上下を行き来するが、エレベーターが止まる最下階のさらに下にも層がある。誰もそこへは行かない……「わけあり」の者をのぞいては。

狐人サラクは露骨に顔をしかめた。
「あなたが想像するような、無頼者がうろうろする無法地帯と我々の仕事はいっさい関係がありません。そういった区画とは別の、学術的に重要と思われる箇所を視察し、必要があれば調査隊を組織して計画的に発掘調査を実施します。出土品は専門機関で研究され、研究成果は文明の発展に役立てることになります。たとえばそうですね、この部屋には極端に文明の利器が少ないですが、あそこにある古めかしい黒電話、あの電話という技術にも考古省が発掘した出土品の……」

話が長くなりそうだったので、私は軽く咳払いをした。
「おほん。先にご用件をおうかがいできますかな。じつはこのあとも来客の予定が詰まっていまして」

挿絵:服部奈々子

挿絵:服部奈々子

サラクは、黒電話の上の壁にちらっと目をやった。そこには書き込みスペースを大きくとったカレンダーがかけてあるが、今日を含め、ほとんどの日付は空欄であった。
私がもう一度咳払いすると、サラクは細い目をしばたたいて、仕切り直しをするように姿勢を正した。

「……そういうわけで、あなたはご存じないでしょうが、今も都市の下層ではいくつもの調査隊が発掘調査を行なっています。その現場のひとつから先日連絡がありました。発掘したばかりの出土品が見当たらないというのです。そして、時を同じくして現場に来なくなった作業員がいると。もちろん考古省の職員ではありません。契約会社が短期でやとった、ただの労働者です」
「それなら警察に窃盗の被害届を出すべきですな。その重要参考人を捕まえて事情聴取をしてくれるでしょう」

私は役人の物言いにうんざりしてきていた。暑苦しい日に暑苦しい格好をして、暑苦しいやつめ。

「警察が関係してくると、その前途有望な若者の経歴に傷がつくことになってしまうかもしれません。たとえ彼が盗んだのではなかったとしても、警察に話を聞かれるなんて大変なことですからね。我々としては、出土品が無事に戻って来ればそれで良いのです」

なるほど、そういうことか。国家事業である発掘調査の出土品が紛失したとなれば、考古省の管理体制が問題になる。モノさえ戻って来れば、紛失した事実もなかったことにできる。早い話がもみ消しだ。いけ好かない話である。
サラクの人を食ったようなキツネ顔を見ていると、いけ好かなさがますます募るので、そこから視線を外して、かわいいサボテンたちを見た。判断に迷ったときはいつも、彼らが答えを与えてくれる。

「前途有望な若者」という言葉が引っかかった。私はもっともらしく腕組みをして、ゆっくりと切り出した。

「おっしゃる通り、警察にまかせる前に、その若者に会って話を聞くというのは悪くない考えですな。しかし、どういう人物なのか、もう少し具体的に教えていただけると助かります。もし物理的にかなり小さいとか、とつぜん姿が見えなくなるとか、そういった特性がある場合はお引き受けできないこともありますので」

私は昨日解決した、豆陸鮫(マメリクザメ)探しの苦労を思い返した。やつは小さい上にすばしこく、予測のつかない角度から鋭い歯で攻撃してくるので、捕まえるのに難儀した。

サラクはホッとして——というより、してやったりという様子で——かたわらに置いたカバンを引き寄せた。

「それでしたらご心配には及びません。サイズは普通ですし、変わった特性もありません。写真つきの名簿の写しを持ってきたのでご覧ください。ただし、個人情報はくれぐれもご内密に」

そう言ってカバンから取り出した紙の、顔写真の部分が目に飛び込んできた。
私は、あっと声が出そうになるのを、すんでのところで押しとどめた。

(第四話へ続く)

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