鳥の民泊(その2)by 芳納珪

挿絵:服部奈々子

挿絵:服部奈々子

2

適当に休憩しながら自転車を漕いで、多摩川についた。
土手のサイクリングロードに上ると富士山が見えて、思わずおーっと声が出た。
反対側の下流方向を見ると、民泊サイトに載っていた写真の通りの、大きな木があった。あの木の下が、目的地だ。

近づくにつれ、本当に大きな木だという実感が湧いてきた。一本だけで森のようだ。
木陰に入っても、幹まではまだかなりの距離がある。
はるか頭上で、家ほどもある幹から伸びた枝が、網目のように幾重にも交差している。
あの枝の中に鳥たちの街があるのだけど、遠すぎて下からはよく見えない。
ざわざわいう葉ずれの音に混じって、ピピピ……チチチ……と、軽やかなさえずりが降ってくる。

民泊はすぐにわかった。これもサイトの写真と同じだったから。
同じ形の家が十軒、整然と並んでいる。それぞれの玄関扉に大きく数字が書いてある。
自分が予約した家を見つけて、予約完了メールにあった数字を打ち込み、キーを解除した。

扉を開けると、古い家の匂いがした。とりたてていい匂いとは言えないけど、嫌いじゃない。
ダイニングキッチンに荷物を置いて一息ついていると、窓がコツコツと鳴った。
目を向けて、ハッとする。鮮やかな青い羽にオレンジ色の胸。長いくちばし。
カワセミだ。
窓を開けると飛び込んできて、テーブルの上にとまった。

「ようこそ、鳥の民泊へ」

青い羽を優雅に広げ、長いくちばしを上品に開いて、カワセミはあいさつした。

「夕食は日没前の六時からですので、それまではご自由におくつろぎください。付近を散策なさるなら地図はこちら。書斎には古今東西の鳥に関する本がございます。
当民泊ならではのおもてなしとして、さまざまな鳥が勝手に出入りして話しかけたりしますが、邪魔なら無視していただいてかまいません。
また、いくつかのアクティビティをご用意していますので、ご希望があればお申し付けください。河川敷での凧揚げ、苔の観察、ヴィーガン鷹狩り体験、鳥の街見学ツアー(木登り保険つき)、がございます」

考えた末、鳥の街見学ツアーを明日の朝一で申し込んだ。

ずっと自転車を漕いできて疲れていたので、シャワーを浴びたあと、書斎の本を眺めてゆっくり過ごした。鳥類図鑑の彩色銅版画の美しさに見入ってしまった。

カワセミが言った通り、常に五、六羽の鳥が部屋を飛び回り、「こんにちは」「どこからきたの」「おなかすいた?」など、気のない風に喋りかけた。
私は答えたり答えなかったりした。壁と天井が合わさるところに小さな扉があり、鳥たちはそこから出入りしていた。

六時になると、十羽ぐらいのアオバトがひとつのバスケットを下げて飛んできた。
テーブルにバスケットを置き、チェック柄のランチョンマットを四羽がかりで広げる。
お母さんみたいなふくふくしたアオバトが、メニューの説明をしてくれた。

雑穀入りベーグル、ナッツペースト、じゃがいもディップ、黒すぐりのジャム、オレンジドレッシングがけ青菜サラダ、ひよこ豆のスープ、豆乳ライスプディング、カモミールティ。

量は少しずつだけど、どれもめずらしい味なので飽きなかった。
食事の間も、鳥たちが入れ替わり立ち替わりして、賑やかしてくれた。

――――つづく

(by 芳納珪)

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