鳥の民泊(その1)by 芳納珪

挿絵:服部奈々子

挿絵:服部奈々子

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庭の柿の木にやってくるヒヨドリから、鳥が運営する民泊があると聞いた。

私の部屋は大家さんが住む家の二階にあり、入り口は独立しているけど、台所の窓が大家さんちの庭に面している。なので、柿の枝に止まる鳥たちと、料理をしたりしながら雑談することがよくあるのだ。
ヒヨドリは声が甲高くてうるさいけど、話題は豊富で面白い。

世界中の鳥たちが、いっせいに知能を持ったのは五年前。
人々は驚きはしたけれど、社会的にはそれほど混乱は起きなかった。なぜなら鳥は土地を所有しないから。人間の争いは、ほとんどが土地をめぐる争いだ。
鳥たちはすぐに、人間社会で人手が足りなくなっていた分野に事業参入した。主なものは宅配便。経営と配達は鳥がやり、事務や仕分けは人間がやる。ツバメがラブレターを届けるサービスなんかはけっこう人気らしい。

だけど、民泊は初めて聞いた。
民泊というのは、空き家を買い上げて、希望する人に短期間だけ貸し出すサービスだ。昔よりも人口が減っているので、都内にも空き家がたくさんある。
その民泊では、ほかの鳥会社と同じように、いろいろな事務や料理や掃除を人間がやり、姿や声の美しい鳥が、食事の給仕や観光案内をするという。

興味をひかれたので、検索してみた。多摩川のほとりにある、もと都営住宅だそうで、写真を見た限りではこぎれいで快適そうだ。
マップで調べると、ここから自転車で四時間と出た。
遠くへ移動して、自分の家ではないところに泊まることを、旅行と呼ぶのは知っている。昔はみんなしょっちゅう旅行に行っていたそうで、私の親なんかもよく懐かしそうに、旅行した土地の話をしていた。
四時間も移動して、民泊に泊まれば、立派な旅行だろう。

行ってみようかな。
もし、良い体験だったら、友だちに自慢できるかも。
こういう気持ちを、ワクワクするというんだろうか。
日にちを次の公休日に設定して、予約を入れた。

当日、早めのお昼を食べてから自転車で出発した。外に出るのは久しぶりだ。
気持ちの良い秋晴れで、高いところに雲がひとつふたつ。
道にはほとんど人はいない。
しばらく行くと、向こうからジョギングの人がやってきた。お互いにマナーを守って、ちゃんと道の反対側へよけた。

駅から離れるほどに空き家が増える。人の住まなくなった家は、びっしりと葛(くず)に覆われている。
京王線の線路が近づくと、再び人の住んでいる家が増えてきた。同時に道を歩いている人も増えるので、近づかないよう気をつけなければならない。

道は全体に緩やかな下りなので、電動アシストを使うこともなく、らくちんだ。
逆に帰りは、どこかで充電しないといけないかもしれない。ステーションを確認しておかなきゃ。
頭の上をカラスが、ガンバレヨーと言いながら飛んでいった。

――――つづく

(by 芳納珪)

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