違和感の残る、戦争映画「ハクソー・リッジ」

沖縄戦に衛生兵として従事し、数人の日本兵も含めて75名の負傷者を救った実在の兵士を描くアメリカ映画「ハクソー・リッジ」を見た。
映画は前半と後半で大きく違っており、前半は主人公の少年時代、大人になってからの看護婦との恋、新兵訓練の様子を描き、笑いもあるし普通の映画と変わらない。後半はうって変わって、日本軍との激戦を描き主人公が銃を持たずに負傷した兵士を救う活躍が描かれる構成だ。

映画「ハクソー・リッジ」監督:メル・ギブソン 出演:アンドリュー・ガーフィールド サム・ワーシントン他

監督:メル・ギブソン 出演:アンドリュー・ガーフィールド サム・ワーシントン他

これまでかなり多数の戦争映画を見てきたが、戦場がこれほど残虐に描かれたものもないと思う(日本映画なら数年前の「野火」だろうか)。手足が吹っ飛び、頭が破裂し、内臓がうじゃうじゃと出てしまう。見ているこちらが物理的に圧倒されるくらいハードに執拗に描かれる。あまりの残虐さに気持ち悪くなり「ハキソー(吐きそー)リッジ」と上手い洒落を言った映画仲間もいる。少し過度に表現しているのではないかと思うが、これが最前線の姿かもしれず無論判断は出来ない。

まあ、フィクションたる劇映画だから描き方は自由だ。しかし、所々に気になってしまう箇所がある。例えば、アメリカ軍が機関銃をぶっ放すが、日本軍も負けじと撃ちまくる。沖縄戦の時、日本にも弾や武器が沢山あるような描かれ方だ。また、斃れても斃れても日本兵が襲ってくる。ああいう事実はあったのだろうか(朝鮮戦争の時、国連軍が北に攻め込むと、彼方から中国の義勇軍が延々と攻撃してくるというシーンを幾つかの映画で見たが、それを思い出した位だ)。まあ、これも「表現」だから目くじら立てることは無いのかもしれない。

しかし、これだけは映画としてもおかしいだろう、嘘もいい加減にしろと思ったのは、アメリカ軍が断崖に縄梯子を掛けてそこからよじ登り、劣勢になったため、そこから降りて撤退するのだが、主人公は、崖の上で、夜中ずっと、見つけた負傷兵をロープに巻き付けそこから降ろすという献身的な行為を続けていくが(確かにこれが映画の一番の見どころだ)、一体なぜ、崖の上では圧倒的に優勢だった日本軍がこれを見つけて切ってしまわないかという素朴な疑問が生まれてしまって映画に大きく距離を置くことになった。

「人を戦場でも殺さない」という信念を貫いたアメリカ人がいた事実を知るのは素晴らしい驚きだ。だから確かにこの映画は一見の価値はあろう。しかし、であるならば、基本的な設定に大きな嘘を入れては絵空事になり感動も薄れるのではないか。

また、映画の方向が違うと言われればそれで終わりになってしまうが、それでも言いたい。およそ戦争を描く映画は基本的に悲しみや哀れさが滲み出る反戦・厭戦映画であるべきではないか。ましてや、10万人が犠牲になった(沖縄の無辜の民、住民の4人に1人だ)激戦の沖縄戦だ。この映画、その意識が薄いのではないか。確かに日本兵が「ハラキリ」をやるシーンはあるが何だか取って付けたようだった。何だか日本にも配慮してますよという言い訳みたいだった。

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映画「ひめゆりの塔」監督:今井正 出演:津島恵子 香川京子 藤田進 岡田英次

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つらい映画だが、好きな映画を一本。沖縄戦争時、部隊と共に行動を共にし、最後はほとんどが亡くなった乙女たちのひめゆり部隊を描くモノクロの日本映画「ひめゆりの塔」だ。

寮で生活し平和に学校生活を送っていた少女たちが戦争に巻き込まれ野戦病院で傷病兵の世話をし(阿鼻叫喚の地獄だ)、砲弾に逃げ惑い、爆撃を受けて息絶え、あるいは自決してゆく・・・これが戦争のリアルな姿だろう。

映画としての派手な表現はないが、そくそくと悲しみや哀れさが見る者に伝わってくる。
戦争体験者が少なくなっていく昨今、平和を訴える昔の名画は繰り返し見られていい、こういう映画こそが日本人には必要だと思う。