旅からひと月以上経ってしまった。記憶が薄れないうちに書く。
第3新東京市で「シン・ゴジラ」を観た。
わたしはゴジラにさして思い入れはない。子どものころ初めて劇場で見たゴジラ映画が「ゴジラ対ヘドラ」だったからだ。
ヘドラだよ。ヘドロから生まれた怪獣だよ。気持ち悪くてカッコ悪いのだ。
怪獣映画において、怪獣の造形はすべてに優先して重要なことであろう。
熊や人間やライオンと違って怪獣は空想の存在だ。どう想像したっていいのだ。それなのに無様なデザインをするのは許しがたい。
初めて観たのが「ゴジラ対キングギドラ」だったらゴジラシリーズのファンになっていただろう。宇宙から来た3頭の黄金龍キングギドラはカッコいい。
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シン・ゴジラを観たのは、友人たちからの評判がすこぶる良かったからである。5回観た者もいる。これ以上の怪獣映画は今世紀中出ないとの声も聞いた。ちなみに今世紀はあと84年ある。
わたしが得ていた事前情報の代表的なものを列挙しよう。
「これはエヴァンゲリオンだ」
「初代ゴジラの正当後継である」
「怪獣を天災・戦争等に置きかえれば正に今の日本を描いている」
「あまりにドメスティックで、海外では理解されないだろう」
わたしは期待と妄想を大いにふくらませて劇場の席についた。大ヒット中と聞くわりには妙にさみしい館内であった。
「群盲ゾウをなでる」
2時間後わたしの頭に浮かんだのはこの言葉であった。
事前情報はどれも部分的に正しかった。しかしそれらを総合してわたしが「シン・ゴジラはかくあろう」と妄想した姿は大はずれだった。
堂々たる大傑作かと思ったら、お約束とギャグ満載の、庵野秀明監督の趣味的作品だったわけだ。
楽しみどころはあったし、庵野監督にしか作れない映画には違いないから不満はないが、誰にでもおすすめはしない。オタク気質が少なくとも30%以上ある人向けだろう。
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昔ニューヨークでハリウッド版のゴジラを観た。ゴジラが全然ゴジラでないというシンプルかつフェイタルな理由で一部の非難をあびた怪作だが、わたしのツボをつきぬいたのはまったく異なる一点だった。
初代ゴジラはアメリカの核実験によって生まれたのに、ハリウッド版ゴジラはフランスの核実験で生まれたことになっていたのだ!
映画館内ではあったがわたしは笑いをこらえることができなかった。
幸せなるかなアメリカ人! 人類最初の原爆を作り、落とし、フランスの百倍の核兵器を所有しながら、恐怖神ゴジラ誕生の責任は他国に押しつけるのか?
夢の国アメリカの人々は、わたしが腹を抱え笑い続ける理由がまるで理解できない様子であった。
なあジャン・レノ。仕事選べよ。
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言い忘れた。これはネタばれとかではないだろう。
シン・ゴジラ誕生の責任はどこにあったか?
アメリカともフランスとも名指しされない。
各国の無秩序な放射性廃棄物海洋投棄。
「誰のせいでもないよ!みんなのせいだよ!」
ああ、日本的な。あまりに日本的な。
※怪作ハリウッド版ゴジラ(1998) 観たい人は観てもよい。出演はジャン・レノ。
※無重力室の猫丸さんも「シン・ゴジラ」を観て、わたしとは全く違う感想をお持ちになったらしい。猫丸の地球見聞録へ 一度ぜひホテルのバーで語り合いたい。
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