エレキギターの冒険(中編)

アコースティックギターは広告に記載された場所へと向かいました。
そこに『ミューズ外科クリニック』という看板が掲げられた、怪しげな雰囲気が漂うビルがありました。
アコースティックギターが恐る恐るビルの中に足を踏み入れると、見るからに怪しそうな医者が待ち受けていました。
医者はまるでトンボのような派手な眼鏡をかけ、髪の毛を七色に染めていました。
もう帰ろう、とアコースティックギターが踵を返そうとすると、医者が声をかけました。

「待ちたまえ、待ちたまえ。せめて、君の音だけでも聴かせてもらえんかね? 」
医者は見かけによらず、穏やかそうな声でそう言いました。

自分の音を聴いてもらえるなら、と思いアコースティックギターはその場に留まり、村に古くから伝わる曲を奏で始めました。医者は椅子に座り、真剣な面持ちでそれを聴いています。
演奏が終わると、医者は椅子から立ち上がり、拍手をしながら言いました。
「いいね、いいね。なかなかのものだよ。……しかし、なんと言うかね、ハデさというか、何か色気に欠けるな」

アコースティックギターは不審そうな顔をしながら、医者に聞きました。
「ハデさ? 色気? どういう事ですか? 」

医者は側まで寄ってきて、アコースティックギターの弦をボローンと弾きました。
「都会の人々は、もっと刺激的な音に飢えておるのだよ。君の音色はとてもいいのだが、まだまだ地味と言ってもいい。どうかね?私はこう見えても、腕のいい外科医だ。私が君を生まれ変わらせてみせよう。生まれ変わったら、さっきの曲を演奏するといい。きっと大衆にウケるに違いない。
手術代は君が売れてからでいい」

医者の申し出に、アコースティックギターの心は揺れ動きました。
姿かたちが変わるのは恐ろしかったのですが、成功する事なく故郷へ逃げ帰るのも癪でした。
アコースティックギターは決心を固めました。

「お願いします!」

アコースティックギターは手術室へと案内され、手術台の上に横にされました。
そして、麻酔をかけられ、深い眠りに入りました。
「絶対に売れてみせるぞ! 」と硬い決意を胸に秘めながら。

目を覚ますと、医者が隣でタバコをくゆらせながら、アコースティックギターの事を見ていました。
「おお、目が覚めたかな? ……ちなみに、君はもうアコースティックギターではない。君は今日からは『エレキギター』だ 」
そう言いながら、医者は壁に掛かった鏡を向けました。

鏡を見ると、そこには完全に姿の変わった自分が映っていました。
体の中には様々な機械が詰め込まれており、随分と体が重くなったようです。
よく見るとボディーの表面には、何かのスイッチやツマミがいくつも付いていました。

「ーーさあ、音を出してみたまえ!」
医者がそのように言うので、エレキギターはさっきの曲を演奏してみました。
ギュイ~ンという今まで聴いた事がないような、大きくて不思議な音がしたので、エレキギターは自分でも驚きました。

医者はタバコをくわえながら、大きな拍手をしました。

「素晴らしい! 実に素晴らしい! ーー君はきっと、若者たちのカリスマになれるだろう。さあ、町に出て、その音を皆に披露したまえ! 」

――――つづく

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