電気売りのエレン 第11話 by クレーン謙

俺は港に停泊している、三本マストのフリゲート艦を見上げた。
船横には巨大な大砲が数多く据え付けてあり、とてもではないが「商船」には見えなかった。
きっと彼らは、この巨大な大砲を商売の取引相手に見せつけ、商売を有利に働かせているのだろうな・・・。
フン、相変わらず姑息なヤツらだ。

「ゾーラ様、どうぞ船におあがりください。伯爵の所へご案内します」
船の上から声がしたので、俺はタラップを上り、フリゲート艦に乗り込んだ。
日焼けをした使用人らしき男が、甲板の上で待っていた。
乗組員が忙しそうに動き回る甲板を通り抜け、俺は船尾の船室へと案内された。
「ここで、しばらくお待ちください。伯爵はすぐに参りますので・・・・」
そのように言い、その男はその場を離れた。

船室に一人残された俺は、船室に施された豪勢な内装を見て回った。
壁には色とりどりの異国のお面が飾っており、テーブルの上には異様な形をした彫刻人形が置いてあった。彼ら商人にとってはこれらの品々は異国の「戦利品」なのだろう。
そして、魔術師であれば、必ず興味をそそられるであろう、本棚にズラリと並んだ「いにしえの言葉」で書かれた古文書の数々。
これらの書物も彼ら商人にとっては「戦利品」に過ぎないのだろう。
俺には、商人である彼らがこれらの書物を所有しているのが、我慢がならなかった。

伯爵は待てども待てども姿を現さなかった。
俺は革袋から水晶玉を取り出し「いにしえの言葉」で呪文を唱えた。
水晶玉が明るく輝きだし、その明かりの中に、よく知った男の顔が映し出された。
フレムだ。

フレムがこの港町にやってきている事は知っていた。
俺はかつての師匠であるフレムの顔を、苦々しい気持ちで見つめた。
「フン、こんな老いぼれが、かつては一番の力を持った魔術師だったとはね・・・・」
その映像の中で、フレムは10歳前後に見えるガキと一緒に馬車に乗っていた。

水晶玉を眺めていると船室の扉が開き、ヴァイーラ伯爵が入ってきた。
いや、正確に言えば「ヴァイーラII世」伯爵だ。
彼の父、ヴァイーラI世は我ら魔術師を憎んでいた。
しかし、今、目の前にいるヴァイーラII世は魔術師の俺と組もうとしている。

「ゾーラ殿、待たせて申し訳ない」
伯爵は、無表情な顔で俺に言った。
相変わらず心の底が読めん男だ。顔は以前にも増して青白く、普段から金勘定ばかりしているからなのか、目に表情というのが全くない。
ヴァイーラは伯爵という地位を利用して、貿易事業に手を出し、行く先々の土地を半ば植民地化して荒稼ぎをしている。

「伯爵。ようこそ我らが国へ。船旅はいかがでしたかな?」
とヴァイーラに言ったのだが、ヴァイーラはそれには答えず俺の水晶玉を見つめていた。

「ゾーラ殿、それは『魔術』であろう?大丈夫なのかね?魔術を用いると何かが必ず消える、と聞くが?」

「伯爵、安心なされ。俺ほどの魔術師になると、消える物はある程度は操れるのです。・・・この魔術を使っている間は、海の水が少し消えているだけです」
俺はヴァイーラの目を見据えながら言ったが、その事に関してはヴァイーラはさほどの関心は示さなかった。
ヴァイーラは水晶玉に映し出されたフレムを見ていた。
「そこに写っている男は誰かね?」

「この男が、伯爵が探しておられる魔術師ですよ」
「ほう・・・・この男がフレムか。かつて、ゾーラ殿が仕えておられた魔術師ですな」
「10年も前の事だがね。もう、俺の師匠でもなんでもない。今は、ただの老いぼれ電気売りだ」
俺は怒りを抑えながら、水晶玉に映し出されたフレムの顔を見つめて言った。
「しかし分かりませんな・・・・。なぜ商人であるあなた方は、フレムを見つけ出し、そして始末せねばならんのですか?まず、そこから聞きたい。俺も無駄に魔術を使いたくないのでね・・・」

――――続く

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