ワインシュタイン博士の長い一日<6>

オウムが鳥たちに伝えたメッセージは瞬く間に、鳥から鳥へと伝言ゲームのようにして国中へと広がった。
そして30分と待たないうちに、カラスがオウムの元へとやってきてカーカーと鳴いた。
その様子をいぶかしげに見ていたワインシュタインはオウムに聞いた。

「何か分かったのかね?」
「博士、ここからそう遠くない所でゼニノフ・カネスキーという男がロケットを使って地球を脱出しようとしているらしい」
「カネスキー?知っているぞ。世界一の大富豪と言われている男だな。カネスキーが密かにロケット開発をしている、という噂はワシも聞いた事がある。そういば、カネスキーはこの近くに広大な土地を所有しているな」

カラスは更にカーカーカーと鳴き、何かをオウムに伝えた。
注意深くカラスの話を聞いたオウムは、ワインシュタインに言った。

「カネスキーのロケットはすでに発射の準備に入っているらしい。しかし、警備はとても厳重で、武装をした軍隊がロケット発射場の周囲を取り囲んでいる」
「それは、きっとカネスキーの私設軍隊だろう。・・・・どうやって連中を騙したのかね?おそらく、自分が地球を救うとか言って自分だけ逃げようって算段だな」
「博士、カネスキーの事を知っているのかい?」
「一度、何かの記念パーティーで会った事がある。あの男は自分の事しか考えておらんぞ。なるほど、ロケットの奪いがいがある相手だ。・・・・しかし問題はどうやってロケットを奪うかだな。相手は軍隊を携えている」

オウムはテーブルの上をクルクルと歩き回り、何か考え事をしているようだった。
そして覚悟を決めたようにしてワインシュタインに告げた。
「私に考えがある。博士、車を出して州立動物園に向かってくれないかね?」

州立動物園は、ワインシュタインの山小屋から車で30分ほどの所にある、大きな動物園だった。
果たしてオウムの話を、本当に信じていいのやら分からなかったのだが、他に取る手立ては何も思い浮かばなかったので、ワインシュタイン博士は亜空間転移装置が入ったアタッシュケースを持ち上げ、車のガレージへと向かった。
オウムもテーブルから飛び立ち、博士の後を追った。

ワインシュタインとオウムが乗った中古のオンボロ自動車は、山小屋を後にして州立動物園がある町へと向かった。
町に入ると、パニックに落ちいった人々が溢れかえっていた。
空を見上げると、晴れ渡った青空に月の大きさほどに膨れ上がった隕石がはっきりと見えた。
人々は、この危機にもはやなすすべもない、と思い知り、愕然としながら空を見上げ、ただ呆然と巨大隕石を眺めていた。

また、ある人々は酒を飲みながら空に向かい泣き叫んでいた。
暴徒と化した群れもいた。
もはや貨幣価値も法律も意味をなさなくなったこの瞬間、奪えるものは奪ってしまえとばかりに、町の商店に押し入り物を奪っていた。
祈りを捧げる人々もいた。
また、そうでない人々は家の中で家族と共にひっそりと最期の瞬間を迎えようとしているのだろう。

――――続く

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