電気売りのエレン 第25話 by クレーン謙

ピーピー、ピーピー、と目覚まし時計のアラームが鳴った。

「レイ、目覚ましが鳴ってるわよ。起きて!」
とお母さんが、隣の部屋から言う声が聞こえた。

ボクは布団から手を伸ばして、目覚ましのアラームを止めた。
ボクは一つ大きなアクビをして、二段ベッドから下に降りると、下で寝ているエリもちょうど目を覚ましたばかりだった。

エリは僕を見ると言った。
「お兄ちゃん、おはよ」

僕たちは歯を磨いて、着替え終わると、台所の部屋まで行った。
お母さんは、昨日は遅番の仕事だったので、帰ってきたのが夜中だった。
朝ごはんがテーブルの上に用意されていた。

とても眠そうな声でお母さんが言った。
「そこに用意したのを食べていって。レイ、スマホは学校に持っていっちゃダメよ」

「わかってるよ、お母さん」
そう、ボク達の学校ではスマホの持ち込みは禁止されている。
だから、持っていきたくてもスマホは持っていく事ができない。

朝ごはんを食べ終わると、ボクとエリはランドセルを背負って家を出た。
ボク達は、とても古い公営住宅の5階に住んでいる。
学校はここから歩いて15分。どこの町にでもあるような、普通の小学校に僕らは通っている。

ボクはもう少ししたら、小学5年。
エリは2年生になる。

エリは学校に行くのが楽しいみたいだけど、ボクはどうも学校が好きになれない。
学校には、あまり仲のいい友達もいないしね。
運動も、それほど好きじゃない。
だから、大体は学校では一人きりで本を読んだり、絵を描いたりして過ごしている。

自然も好きだ。
学校が終わると、ボクはみんなが「とどろき山」と呼んでいる所へ行く。
「山」といっても、そこは小高い丘の上にある雑木林の事だ。
お母さんの話では、ここは昔はたくさんホタルがいた、という。
今は、宅地開発が進んじゃって、ホタルなんか見る事はできない。
ボクはここの「とどろき山」で寝っ転がって本を読むのが好きだ。

今日もボクは学校では、色々と考える事があったから、授業の内容がちっとも頭に入ってこなかった。
休み時間になり、クラスメイト達がドッジボールとかをしに校庭へ行ったけど、ボクは自分の考えをまとめる為、自由帳を取り出して、そこにメモを書きだした。
ふと校庭を見ると、妹のエリが友達と鬼ごっこをして遊んでいるのが見えた。

すると突然、後ろから声がした。
「レーチェルってだれ?」
ボクは驚いて後ろを振り返ると、学級委員のマヤが立っていた。
マヤは僕の書いている自由帳を覗き込んでいた。

「レーチェルってだーれ?レイのガールフレンド?」
マヤはニヤニヤしながら、そう言った。
「いやいや、ちがうよちがうよ!」
ボクはそう言いながら、慌てて自由帳を閉じた。

学級委員のマヤとボクは幼なじみで、幼稚園も一緒だった。
マヤもボクと同じで、本を読むのが好きで、話もとても合った。
もしかしたら学校で唯一の友達かもしれない。
でもマヤは僕とは違って、とても社交的で、クラスのみんなにも好かれていた。
マヤは担任の先生からも信頼されていて、学校行事の事なんかも先生から相談されたりしている。

マヤはニヤニヤ笑いをやめて、急に真顔になり、ボクに言った。
「ねえ、先生から聞いたんだけど、レイのお父さんって、行方不明になったんですって?」

――――続く

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