電気売りのエレン 第39話 by クレーン謙

集落が消されてしまったので、僕たちは帰る場所をなくしてしまった。
小さいレーチェルも一緒なので、僕たちはどこか安全な所へ行き、身を隠す必要があった。

「ヴァイーラは必死になってワシらを探しておるだろう。マーヤも捉えておるしな。
・・・・・この森の奥に、魔術師達のかつての霊場がある。そこへ向かう事にしよう。そこな
らば、強い結界を張る事ができる」

フレムがそのように告げたので、僕らは大怪我を負った漁師を一角獣の背中に乗せ、追っ手が
いないか警戒をしながら、森の中へと入っていった。
マーヤが逃げださないように、フレムはマーヤを見張っていたけど、どういう訳か、彼女は逃
げ出すそぶりも見せなかった。
マーヤは無表情な顔つきのまま、僕らと一緒に歩き出した。
それどころか、マーヤはレーチェルと手をつなぎ、一緒に歩き始めた。
それを見て、二人を引き離そうかと思ったけど、しばらく様子を見る事にした。
僕はレイに聞いてみた。

「ねえ、レイ、本当にマーヤは僕らの敵なのかな?どう見てもただの女の子にしか見えないん
だけど・・・」

一角獣はレイの声で答えた。
「エレン、気を許しちゃだめだ。マーヤはああ見えて、コンピューター・ウイルスなんだ。ま
だウイルスとして成長しきってないけど、彼女の目的はヴァイーラと同じで、この世を破壊す
る事なんだから」
そのように言うレイの声は、さっきよりも聞き取りづらくなっていた。
気のせいか、一角獣の体も小さくなったような気がする。

「レイ、一角獣が、さっきよりも小さくなってないかい?」

「ああ、実はというと電気が足りなくなってきたんだ。どこかで電気を補給しないと、一角獣
は元の馬に戻ってしまう。そうすると、ボクは君達の手助けができなくなってしまう・・・」
レイがそのように言うのを、フレムは目つきを鋭くしながら聞いていた。

「レイ、お前の住む世界も電気が不足しておるのかね?なぜ我らの世界の電気が、足りなく
なっておるのかな?まだ話していない事があるな?」

どぎまぎとしながらレイは、フレムに答えた。
「・・・・・実はというと、君たちに迫っている危機はヴァイーラだけではないんだ。でも、
今はまずはヴァイーラをなんとかしないと。・・・・いつか話すよ」
僕たちの会話は一旦そこで途切れ、僕らは黙り込み、そのまま逃避行を続けた。

僕たちは、全く人気のない森の中をひたすら歩き続けた。
頭上では、聞いた事もないような鳴き声の鳥が飛んでいた。
僕には、これらの自然が全て電気で出来ている、というレイの話が未だに信じられずにいた。
しばらく歩くと、森の先からザーッと水が落ちるような音が聞こえてきた。
視界が開けると、巨大な滝が現れた。山の上から流れる膨大な量の水は、下へ落ち川面に水し
ぶきをあげていた。

フレムは滝を指差した。
「あの滝の中に洞窟があるのじゃよ。その中ならば雨風もしのげるし、しばらくは安全じゃろ
う」

僕たちは森を抜け、滝が流れ落ちる川面へと続く斜面を降りていった。
僕はレーチェルが転んだりしないかヒヤヒヤしながら、二人が手をつなぎ歩くのを見ていた。
斜面を降りきり、滝まで続く細い道を歩いていくと、滝のちょうど裏側に、洞窟が大きな口を
開けていた。
水滴が落ちる中を、僕らはそこへ入っていった。とても暗かったので、僕はセラミックナイフ
を取り出し、それをかざした。
セラミックナイフはボウっと光り輝き、おかげで洞窟の中がはっきりと見えた。

洞窟の中にはテーブルも椅子もあって、奥には本棚や食器棚も置いてあった。
「ふむ。昔のままじゃな」
フレムは、椅子の上の埃をはらいながら言った。

僕らは一角獣の背中から手負いの漁師をゆっくりと降ろし、藁の上に寝かせた。
フレムはレーチェルを促し、椅子に座らせた。
マーヤは傍で、相変わらず無表情な顔つきで突っ立っていた。
マーヤは人間じゃないから、疲れたりはしないのかもしれない。

フレムは食器棚から電気の実を取り出し、お茶を入れる準備を始めた。
「フレムは昔、ここにいたんだね?」僕はフレムに聞いてみた。

「そうじゃ。実はというと、ゾーラもワシの元でここで瞑想をしたり『いにしえの書』の研究
をしておった。ヤツは魔術の習得は誰よりも早かった。野心も人一倍強かったがね・・・。
ワシの魔術はゾーラには効かなかった。どうやら野心の強さと魔術の強さは比例するようじゃ
な」
フレムは電気の実を切り裂き、その電気で湯を沸かし、皆の茶を入れた。
「マーヤ、お前も飲むかね?」
フレムがマーヤに聞いた。

マーヤはフレムを睨みつけながら、答えた。
「・・・・いただくわ」
フレムはマーヤにも黒茶を差し出した。
マーヤは黒茶を味わう、という訳でもなさそうに、それを飲み始めた。
一角獣はその様子を、まるで奇異なものでも見るような目つきで眺めていた。

「作りは人間と同じだから、栄養補給や水分補給も必要なんだな、ウイルスといえど
も・・・」
と一角獣がレイの声で、呟くように言った。

フレムは茶を飲み干すと、本棚から透明な丸い玉を取り出した。

「それはなんだい?」

「エレン、これはな、『遠見の術』で使う水晶玉じゃよ」
そう言いながらフレムは何か呪文を唱え出した。
フレムの唱える低い呪文が、洞窟の中で響き渡った。
すると、水晶玉が明るく輝き始めた。ぼんやりと、水晶玉に海が映った。
僕は驚きながら、それを見つめた。海の上には島が浮かんでいて、島の真ん中には、巨大な塔
がそびえ立っていた。

空の上でピカリと稲妻が光り、その巨大な塔の上に落ちるのが見えた。
「エレン、あれがヴァイーラが建造した『落雷の塔』だ。ヴァイーラはあれで君たちの世界の
電気を奪い、恐るべき武器に変えているんだ」
とレイが僕に言った。

島の周囲には多くの船が停泊していた。みんな、軍船のように見えた。
それを見て、フレムが声を低くしながら言った。
「・・・・・やはりな。ヴァイーラはすでに、軍船を集結させておる。恐らく、あの軍船に
は、あの光の砲弾を積み込んでおるのじゃろうな」
藁の上で横になっていた漁師が目をうっすらと開き、フレムに言った。
「フレム様・・・。ヴァイーラは我らの国に宣戦布告をしました。我らが先制攻撃を仕掛けた
ので、ヤツらに開戦の口実を与えてしまったのです・・・・。申し訳なく思っています。フレ
ム様の言う事を聞かなかったばかりに・・・・」

フレムは漁師の方を振り向き、穏やかな口調で答えた。
「気になさるな。遅かれ早かれ、ヴァイーラはこうするつもりだったのじゃよ。ヴァイーラは
あの大砲を使い、一気に我らの世界を滅ぼすつもりじゃ。・・・・・それよりも、ギルドの生
き残りはどれぐらいいるのかね?船は?」

「・・・・20名。使える船は3隻です」

漁師の答えを聞き、しばらく考え込んでいる風だったフレムは、決心をしたようにして口を開
いた。
「その20名を集め、武器を持たせてほしい。我らは船に乗り、『落雷の塔』を破壊する為、あ
の島へ向かう」

「えっ!!」僕とレイは同時に声をあげた。
「たった20名で、あの軍船がいる中を?無茶だ!」とレイがフレムに言った。

「レイ、君が一番分かっておるであろう?、あの砲弾の供給をまずは断つ事じゃよ。あの砲弾
は、この世界を滅ぼしてまうぞ!それに、エレンの『光の剣』がきっと役に立つはずじゃ」

レイは攻撃を仕掛ける事には、とても慎重なようだった。
フレムとレイがお互いの意見を述べ合う中、僕は黙って二人の話を聞いていた。
ふと後ろを振り返ると、マーヤが小声でレーチェルに話しかけていた。
僕は聞き耳を立てた。

「・・・・ねえレーチェル、あの『いにしえの子守唄』って、また歌う事はできる?」
レーチェルは眠そうな声でマーヤに答えた。
「お父さんが教えてくれた『いにしえの子守唄』?もちろんよ。どうして?」

「また聞かせてね。あの唄は、とても大切な唄なのよ。わたしにも、レーチェル達にとって
も」

――――続く

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