巨人と壁

昔むかしの、そのまた大昔。

ある国に、人々に恐れられている、巨人がいました。
どれぐらい大きかったかというと、三階建ての建物よりも、ずっと大きい巨人でした。
巨人が町に現れると、人々は皆、家の中へと逃げていきます。

何故かといいますと、
巨人は壁を壊すのが、生き甲斐だったのです。
巨人は、大きくて丈夫な壁や塀を見ると、それを壊したくなってしまうのです。

巨人は町へ出ると、次々と壁や塀を壊していきました。
木で作られた壁、レンガで作られた塀、石で作られた壁が、次々に壊されていきます。
巨人は破壊神として、人々に恐れられました。

くる日もくる日も、巨人は壁を壊し続けました。

「お願いじゃ、この壁はワシが何年もかけて、作ったのじゃ!壊さないでくれ!」
左官屋が、巨人にお願いしました。
でも、巨人は無慈悲に、その壁を壊してしまいました。

「たのむ!この塀は、私が森中の木を集めて作ったのです!壊さないでください!」
大工が、お願いしました。
でも、巨人はお構いなしに、木の塀を壊しました。

見渡すと、町には壊すものが何も残っていません。
巨人が町の中心地を望むと、そこに大きな城がそびえ立っていました。
それは、この地の統治者である国王の住まう城でした。
城は、幾十もの、見るからに頑丈そうな壁に囲まれています。

巨人は舌なめずりをし、城の側まで行き、壁を壊し始めました。
すると、丈夫そうに見えた壁は、巨人の手にかかると、いとも簡単に崩れていきました。

城の壁を完全に壊しきると、そこには命乞いをする哀れな王がいました。
巨人は民にむかって、言いました。

「見よ。我らが王は腰抜けだ!こんな情けない王に、我らが地を統治させるわけ
にはいかぬ!」

巨人は、その王を国から追放し、その地の統治者になりました。
国の民は恐れをなし、 何人たりとも巨人には、近づこうとはしません。
統治者となったのに、誰も巨人の事を敬ったりはしませんでした。

「ふん、王だけではなく、民も腰抜けばかりよ・・・」
そう言い放ち、巨人は破壊する壁を探す旅に出る事にしました。
巨人は壁を壊すのが、生き甲斐だったのです。

巨人は西へ西へと、歩いていきました。
隣の国に着くと、壊す壁や塀はないか、巨人はキョロキョロと見渡しました。
見ると、そこに巨大な壁に囲まれた城がありました。

「これはこれは、壊しがいがある壁だ!」

巨人が城に近寄ると、黒い色をした巨人がせっせと巨大な壁を作っているのが見えました。
それを見て驚いた巨人は、壁を作っているその黒い巨人に聞きました。

「その城は貴様のものか?」

壁を作っていた、黒い巨人は壁を築く手を休め、答えました。
「そうだが、それがどうかしたのかね?」

「どうかしたか?だと?なんたる事だ!貴様は自分の城に壁を築いておる!巨人は、壁を壊す
ものではないのかね?!」

「何を言う。おまえの住む城にも巨大な壁があるではないか!」
と黒い巨人が言い返しました。

「な、なに?!失礼な事を言うな!オレの城に壁などない!」

「おまえは愚か者だ。おまえは自分の住む城もよく見ておらんのか?」

と言われてみれば、たしかに巨人は自分の住む城を思い出せなかった。

「そういえば・・・・・オレの城は、どんな大きさで、どんな形をしていたのだろうか?」
巨人は壁を壊すのに忙しく、自分の城の事をよく見ていなかったのです。

巨人は自分の城を確かめる為、国へと帰りました。
町から少し離れたところに、巨人が住んでいた城がありました。
見てみると、確かに自分の城は見た事もないような、丈夫で巨大な壁に囲まれていました。

「誰だ、誰だ?!オレの城にこのようなみっともない壁を築いたのは?!・・・・きっと我が
国の民がオレが知らぬ間にこの壁を作りおったのだな?壁を作る者は臆病者だ!!」

さっそく、巨人は自分の城の壁を壊し始めました。
しかし城の壁は思いのほか丈夫だったので、なかなか壊れませんでした。
ようやく壁が壊れたかと思ったら、壁の中から別の壁が出て来たのです。

「ウヌ、この壁を作った者は、この国一番の臆病者だ!しかし、ワシには壊せぬ壁は無
い。見ておれ!!」

しかし壁を壊しても壊しても、次から次へと丈夫な壁が現れました。
おかげで巨人は、自分の城の壁を壊すのに何年も何年も、かかってしまいました。
人々が集まりはじめ、巨人が一心不乱に壁を壊すのを見ています。

巨人はすっかりとやつれてしまい、まるで別人のようになっていました。
そうして、何年かたったある日の事、ようやく最後の壁が現れました。
巨人がその壁を見ると、表面に子供が描いたような字が書いてありました。

巨人が目を近づけ、その壁を見ると、このような文が書いてありました。
『僕は、さびしい』

その文の隣には、このように書いてありました。
『僕は、つよくなりたい』

その隣を見ました。
『僕は、とてもつよい!』

壁にはそのような字が、書いてあったのです。
よく見ると、その壁自体も子供が作ったような、とても壁とは言えぬ幼稚な作りでした。

きっと子供が作った壁だろう、巨人はそう思いました。

しかしその壁は見かけによらず、とても頑丈に出来ていたのです。
いままで巨人が出会った壁の中でも、最も手強い壁でした。

巨人はその壁を完全に壊すのに、一番時間が掛かってしまいました。
何年も何年も巨人は、拳や足を使い、壁を叩き続けました。

最後のその壁が完全に壊れ、瓦礫になった時、ようやく巨人は思いだしました。

「・・・・・この壁はオレが、子供の時に作った壁だ!!」

それから巨人は次々と思いだしました。

「・・・・・オレの城の壁は、全部オレ自身が築いた壁だった!」

巨人は瓦礫の山の上で、がっくりと腰をおろしました。

「オレが、この国一番の臆病者だったのだ・・・・・・」

巨人は西の方を見ると、隣の国で黒い巨人が壁を作り続けているのが見えました。
巨人はため息をひとつつき、言いました。

「あいつはバカだ・・・・。あんなに丈夫に壁を築いたら、壊すのに何十年もかかってしまう
だろうに・・・・・・」

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