ユー君とアイちゃん

ユー君は、いつものように一人で積み木遊びをしていました。
ユー君には、あまり仲のいい友達がいません。
そして、いつものようにユー君がいる部屋では、にぎやかにおしゃべりをする声がします。
でもユー君は誰とも、お話をする気にはなれませんでした。
ユー君は一人きりでいる事に、なれていたのです。

ふと、部屋の反対側を見ると、そこにユー君と同い年ぐらいの女の子がいました。
ユー君は、その女の子を見て「この子はぜったいに、どこかで会った事がある! 」と思いました。

そこで勇気を出して、ユー君はその女の子に話しかけてみる事にしました。
その子は、一人で絵本を読んでいたのですが、ユー君が近づいてくるのを見て、絵本を読むのをやめて、言いました。

「あなたユー君でしょう? あたし、あなたの事、覚えているわ・・・・」

ユー君は、その子がそのように言うのを聞いて驚きました。
あまりお話をするのが、得意じゃないユー君は、なんと言おうかと困っていると、その子が言いました。

「ユー君、覚えてないの?あたしたち同じ保育園にいたじゃない? 」

そのように言うのを聞いて、ユー君はようやく思い出しました。
その子は同じ保育園にいた、アイちゃんだったのです。

「思い出したよ! キミはボクと同じ保育園にいたアイちゃんだね!こんな所で会えると思わなかったよ。ずいぶんと、ひさしぶりだね!」

嬉しくなったユー君は、保育園にいたころの、懐かしい思い出話を始めました。
こんなに長い事、お友達と話し込むのは、ずいぶんと久々の事でした。
しばらく話し込んだあと、ユー君は、今まで心に溜め込んでいた、人には言えない事を話し始めました。

「ねえ、今まで誰にも言わなかったけど、僕はここでは、誰にも好かれていないようなんだ・・・」

それを聞き、アイちゃんは黙り込みましたが、しばらくして言いました。

「・・・・・あたしもよ。あたしも、ここにはお友達がいないわ。先生は、あたしの食べ方がきたない、っていつも怒ってばかりいるの」

「そうだったんだね。あの・・・・その・・・・・、実はボクもいつも先生にしかられているんだ。いい歳をして、いつまでも、おねしょをする、って言って」
ユー君は顔を真っ赤にしながら、今まで隠していた事を白状しました。

お互いの秘密を打ち明け合った二人は、しばらく黙っていましたが、アイちゃんがポツリと言いました。
「あたしたちは、ここでは誰にも好かれていないのね・・・・」

それを聞き、ユー君はいたずっらぽい表情を浮かべながら言いました。
「ねえ、ここから逃げちゃおうよ。どうせ、誰もボクたちの事は好きじゃないんだから」

ユー君がそのように言うのを聞き、アイちゃんの顔がパッと明るくなりました。
二人はヒソヒソ声になり、どうやって逃げるか相談を始めました。
大人たちの気配がしなくなった頃を見計らって、ユー君とアイちゃんは何も持たずに、こっそりと部屋を出ました。

外へ出ると、夕暮れも近くなっていました。
でも、空は晴れ渡っていて、とても気持ちのいい風が吹いていました。

「ねえ、あたしたち、どこにいけばいいのかしら? 」
すこし不安になってきたアイちゃんがユー君に聞きました。

ユー君は、アイちゃんの左手を右手で握りしめ、言いました。
「あの地平線に向かって歩いていこう!きっとボクたちが幸せに暮らせる所が、どこかにあるさ! 」

二人は手を取り合って、地平線に向かって歩き始めました。
とても不安でしたが、二人の心は今までにないほど、ワクワクとしていました。
ユー君とアイちゃんは、いつまでもいつまでも、歩き続けました。

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日も暮れ始めた頃。
拡声器から寂しげなメロディーが鳴り響き、住宅地に向け放送が開始された。
ああ、またか、という表情を浮かべながら、町の人々はその放送を聞いていた。

「・・・・・今日の夕方、高齢者施設から、入居者の二人がいなくなりました。お見かけしましたら、是非ご連絡をお願いします。・・・高齢の男性と女性です。二人の年齢は・・・・・」

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