オオカミの子はショーンの事に気づくと、目を光らせながらクンクンと鼻を鳴らしました。
ショーンは、相手を刺激せぬように恐る恐ると後ずさりします。
「お、おまえはオオカミだな ! どこから入ってきたんだ ? 村は柵で囲まれているのに……」
「僕の名はミハリ。大人のオオカミは確かに入ってこれないけど、僕ぐらいの大きさなら、あちこちに抜け道はあるのさ。なにせ、柵はもう古いからね、実はというと柵はあちこち穴だらけなんだ」
ミハリと名乗った子オオカミはショーンの周りをグルグルしながら言いましたが、一向にショーンに襲いかかろうとはしません。
「……安心しな。僕はまだ所詮子オオカミだから、せいぜいウサギぐらいしか狩る事ができないんだ」
よく見てみるとミハリは、自分とそれ程大きさは変わりません。
少し安心したショーンは、言いました。
「ボクはショーン、生まれた時からこの村で暮らしている。どうしてお前は村に入ってきたんだい ? 」
「なぜだか僕にも分からないんだ。ここの村の匂いはなんだか懐かしい匂いがするからね……」
「昔、オオカミは羊だったって、先生やお父さんが言っていたな。だからじゃないか ? 」
ミハリはいかにもオオカミらしい仕草で座り込み、クックックッと小さく笑いました。
「そんなバカな ! 僕らはどう見ても、違う生き物じゃないか ! オオカミと羊が同じ生き物な訳がないだろう ! 」
どういう訳か、ショーンとミハリは惹きつけ合うものがあるようで、気が合うようです。
それからというもの、大人たちには内緒で、二匹は会うようになりました。
オオカミは夜行性ですから、羊たちが寝静まった頃に二匹は秘密の待ち合わせ場所で、話をしたり鬼ごっこをして遊ぶようになりました。
鬼ごっこは大概はミハリが勝ちます(ミハリは一応オオカミですからね。獲物を探すのは羊なんかより得意なんです)。
そこで、ミハリはショーンに、いかにして獲物を探し出して追い詰めるかを教えてあげました。
「ショーン、獲物を探す時には息を潜め、鼻をきかせるんだよ。そして獲物の気配を感じ取るんだ ! 」
獲物の狩り方を教えてくれたお礼にショーンは、畑で出来たサニーレタスをミハリにあげました。
最初ミハリは顔をしかめていましたけど、「うん、美味しいかもしれない……」と言いながら
サニーレタスを食べるように。
でも、ショーンはミハリがくれたウサギの肉は食べれません。
それはそうです。……羊は草食動物ですから(でも、もしかしたらその内に羊も肉を食べるようになるかもしれませんね。ミハリも野菜を食べるようになったのですから)。
ある夜、ショーンがミハリに言いました。
「……ああ、君がうらやましいよ!僕は一度も柵の外に出た事がないんだ。ここの羊たちは、ごく一部しか外には行かないんだ。村長とか野菜売りとかね。さぞかし、外の世界は広いんだろうな ! 僕は君と同じオオカミになりたい ! 」
それを聞きミハリは嬉しくなりましけど、しばらくすると悲しそうな顔になりました。
「ショーン、それはダメだよ。大人のオオカミは羊を見ると獲物だと思ってしまうからね。一緒に外に出ると君は大人のオオカミに襲われるだろう。僕こそ、村に残って羊になりたいよ。
そして一緒に遊んだり美味しいサニーレタスをたらふく食べたい。でも、オオカミは羊の村では暮らせないのさ。僕たちは内緒でしか会えないんだ……」
このように二匹は、とても仲良しになったのですが、突然別れの日がやってきました。
ーー村の羊たちが、柵の穴に気がついたのです。
穴は塞がれ、柵が古くなっていたので大規模な改修工事が始まりました。
出来上がった柵は、石造りになり、アリ一匹村のなかに入ってこれなくなりました。
ショーンはミハリに会えなくなったので、一晩中泣きました。
お父さんもお母さんも何が起こったのか、さっぱり分かりません。
ショーンは悲しんでばかりもいられません。
学校にいって、いつかは立派な羊にならなければいけないのですから。
ショーンは学校に行き、親友の事を忘れるように一生懸命勉強をしました。
ショーンは頭がよく、その上、他の羊にはない能力がありました。
肉食動物でもないのに、まるでオオカミのように鼻がきき、獲物や敵の気配を感じられるのです(ミハリに狩りを教わったからでしょう)。
……そのようにして何年も経ち、ショーンは羊の学校を卒業して立派な大人の羊になり、やがて結婚をして子供が三匹できました。
ショーンは村の皆に好かれていて、その特殊な能力で一目置かれているので、羊の村、23代目の村長に選ればたそうです。
――――つづく
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