「しつけ」ってなんだろう

「躾」「しつけ」という言葉は育児には避けて通ることのできない言葉のひとつだろう。もう赤ちゃんとは言えない月齢になった息子や、一緒に遊んでくれる子どもたちの成長を見ながらそんなことをよく考えるようになってきた。

「鼻ほじらない!食べない!」
「お菓子はごはん食べてからだよ」
「そこからジャンプしない!ころんだら痛くなるよ」
「ちゃんとパジャマ着ないと風邪ひくよ」

こんな言葉を日に何度も言い続けている。
どうして子どもはやめてほしいことばかりしたがるのか。
遊びに来てくれた近所の子どもたちがソファーで3人並び、全く同じ姿勢で鼻をほじっていた光景を目にした時は思わず笑ってしまったが、これを厳しく叱る意味が果たしてあるのだろうか、とふと思った。
たしかに鼻をほじっているのは行儀が悪いしそれを食べるなんてもってのほかである。しかし、子どもの頃自分も鼻をほじって食べた記憶はあるし、そしてもちろん今はそんなことはしない。

子どものすることについダメなことばかり言ってしまうことが多いが、自分が最近感じていることは、実は躾が必要なのは子どもではなく、まずは自分を含めた大人の方なんじゃないか、ということである。
そもそも「躾」というのがどうして必要なのかを本気で考えてみたことがある養育者はどのくらいいるのだろうか。ただなんとなく自分の中にあるオリジナルな規範、もしくは育ってきた環境や自分を取り巻く社会の曖昧なルールに、無自覚に従っているだけなのではないだろうか。その規範は本当に自分の子どもの未来にとって有益なものなのかを、もう一歩自分の中で考えてみることが必要なのではないかと思う。

世の中を見渡せば、今の時代多くの人たちの生きづらさの原因になっているのは「人間関係」、つまりコミュニケーションのつまずきであることは間違いないように感じる。人はひとりで生きていくことは難しく、社会の中でそれぞれの役割を担ってうまく協力しながらやってきたはずだが、それがどうもうまくいかなくなってきているような気がする。
高学歴で仕事でも優秀な成績を持っている人が、パワハラやモラハラなどで問題を起こしたりすることは珍しいことではないし、大企業では大きな予算を割いて講習を行わなくてはならないほどに常態化しているといっても良い状況である。これはテストの点数や売り上げ実績など、数という誰にでもわかりやすいことに注目がいってしまい、それ以前に生きていくための土台となる部分が伝わりにくくなっていることが原因ではないだろうか。最近特に問題になっている社会的なハラスメントや、家庭内でのDVや虐待、ネグレクトなどの本質はそのあたりにあるのではないかと、育児に関連する本やSNSなど様々なものを見て感じている。

いわゆる「躾」や「教育」に関する習い事をはじめ、子どものためになることならばなんでもしてあげたいというのが養育者の気持ちだろう。
しかし、今自分が強く思う子どもへの気持ちは「かわいがられる」存在であって欲しいということである。大切な人たちにこそ礼儀を失わないこと、人との関わり合いの中で最低限の節度を保てること。そういった勉強以前の社会的能力こそが、子どもに最も必要なことではないかと考えるようになってきた。そしてそのお手本になるのは、最も近くにいる大人、養育者なのである。
「怒ることと叱ることは違う」などとよく言われるが、養育者が感情に任せて暴言を吐いたり暴力を振るったり、無視や高圧的な態度などで子どもや家族に接すれば、間違いなく子どもはそれをモデリング(模倣)し、他者との関係の中でもそれに倣った行動をする可能性は極めて高いだろう。その結果どうなるかというと、その子どもは嫌われたり、難しい子どもとして距離を置かれたりすることになる。勉強ができたり特技を伸ばしたりすることはもちろん素晴らしいことだと思うが、それ以前に養育者がそういった「しつけ」を自分自身で身につけることが大切ではないだろうか。
養育者が面倒をみてくれて、施設や学校があるうちはいいけれど、子どもはいずれひとりで社会に出ていくことになる。その時に「かわいがられ、愛される」ことほど大切なことはないだろう。自分の座右の銘は「かわいいとおいしいがあればなんとかなる」だが、やはり「かわいい」ことは全てに勝る強力な資質であると信じている。いくつになってもそれを忘れない大人になりたい、と思う。

(by 黒沢秀樹)

『できれば楽しく育てたい』黒沢秀樹・著 おおくぼひでたか・イラスト

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※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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