巣ごもり期間で思うこと

この二週間ほどは新型コロナウィルスの影響でしばらく外出を控えなくてはならない状況になり、自宅でずっと子どもと一緒に過ごすことになった。
体力もついてきて、一日中公園を走り回っても疲れを見せないような子どもが家から一歩も外に出ずに過ごすとどうなるのか、という経験ができるかなり特別な期間である。自分自身もこの2年ほどは可能な限りの仕事を外出せずにできるようにしてきたが、まだ物事がよくわからない子どもはそうはいかない。果たしてどうなることか、潜水艦に乗り込むような気持ちで覚悟を持って臨んだが、結果は予想していたものよりもずっと充実した、有意義な日々だった。

今だけは、と食べたいものを食べたい時に与え、テレビは見放題、おもちゃは出し放題、絵本もおもちゃのカタログも一緒に読み、恐竜ごっこにもできるだけ付き合った。誰を気にすることもないのでたっぷり甘やかしてみたが、子どもはとても楽しそうだった。

子どもの行動ひとつひとつを観察していると、まさに「日々」新しい成長が感じられた。
ある日は自分でベッドメイクをしはじめ、毛布を指差して「父さんはここ」と言った。
「おしっこっ!」と言ってトイレに行くと、手の届かない場所にある灯りのスイッチを椅子に昇って押してドアを開け、ひと通り用を足すとしっかり服を着てドヤ顔で出てきた(パンツの前後は逆だったけど)。トイレの一連の作業をひとりで全てできる様になった瞬間を見た時には驚いた。

公園に行きたいと言い出した子どもにそんな理屈は通用するはずがないと思いながらも、「そうだね、父さんも行きたいんだけど、今は外にバイキンがいっぱいだから、お友達もみんな外に出られないんだよ」と伝えると、「そっか」と、すぐに納得してくれて拍子抜けしたが、その後自分が窓を開けたりベランダに出たりすると「外はバイキンがいるからダメだよ!」と逆に嗜められてしまった。

そして今までほとんどなかったおもらしを、2回した。しかしこれは単なるおもらしではなく、自覚的なおもらしだった。
ソファーでアニメを見ている姿勢が何か変だったので様子を見ると、すっかり服がびしょびしょになっていた。「どうしてトイレ行かなかったの?」と聞くと「間に合わなかった」とか「テレビが見たかった」などという返事ではなく「してもいいかなと思って」という思いがけない答えが返ってきた。子どもはうっかりおもらししてしまったのではなく、あえておもらしを選択したのである。

子どももこの状況にはかなりのストレスを感じていることは間違いないはずで、これは「退行」と呼ばれる現象だと思われる。その後も時折「赤ちゃんモード」になったが、いつもなら日常に追われて忙しくしている養育者がなぜかずっと一緒にいてかまってもらえる状況というのを、子どもなりに楽しんでくれていたのかもしれない。

掃除、洗濯、料理など、もともと趣味の延長上にある日々の家事育児に丁寧に向き合うことで見えてくることも多かった。子どもの見える場所でできることをと考えて、思い切ってキッチンのDIYにまで手を出してしまったが、自宅にいながらネットであらゆるものが手に入る時代で本当に助かった。

こういう機会を得たことで、同時にこれまでの自分自身の生活にどれほど気分的な余裕がないのかを実感することにもなった。子どもと向き合うことはイコール、自分自身と向き合うことでもあるのだ。
そもそもある程度自由に時間を作れる自分のような人間でさえそう思うのだから、一般的な仕事に従事している方々の育児と仕事の両立はさぞ大変なことだろう。
子どもが子どもでいる時間は今しかない。子どもとずっと一緒にいて、ずっと子どものことを考える。そんな当然のことが誰でも安心して普通にできる世の中であって欲しいと切に願う。

(by 黒沢秀樹)

『できれば楽しく育てたい』黒沢秀樹・著 おおくぼひでたか・イラスト

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※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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