ペロペロキャンディーのもらい方

このところの子どもの成長は著しく、ついこの前までできなかったことが、気がつくと普通にできるようになっていたりする。
おねだりのバリエーションもかなり増えてきて、かつては絶叫して泣き叫ぶだけだった方法が、かなり高度なテクニックを身につけ始めている。

「ねえ、ペロペロキャンディ食べていいでしょう?」(上目使い)

「今はまだおやつの時間じゃないからまだダメだよ」

「おねがーい、一個だけ、いいでしょう?、おねがーい。。。」

「1日1個だけの約束だよ、今食べちゃったらもう食べられないよ?」

「今がいい、今食べたい!」

「ごはん食べたばっかりでしょ、おやつの時間になったら食べようね」

「もういいでしょ、ほら見て!もう時間だよ、1個だけ、1個だけお願ーい」(読めないけど時計を持ってくる)

「まだ5分しか経ってないよ。おやつの時間にね」

「ペーロペーロキャンディ!ペーロペーロキャンディ!」(デモを起こす)

「そんなに大きな声出さなくてもいいでしょ」

「・・・ペロペロキャンディくださいっ!」(急に敬語)

など、最終的な泣き落としに突入するまでにもかなりのバリエーションを得てきた。この調子なら大体のものが手に入るのではないかとさえ思われる。

こういう交渉の仕方をされると養育者といえどもなかなか断りにくい。「こんなに切実に訴えられたらねえ」という気持ちなり、うっかり約束を破ってキャンディーをあげてしまったりする。
もちろん無尽蔵に要求されたものを与えるわけにはいかないが、健康や安全を損なわないラインであれば可能な限り自分はこの交渉のテーブルにつくことにしている。これを「甘やかしている」と考える人もいるかもしれないが、自分としてはコミュニケーションの能力に応じてきちんと評価をしていくことの方が大切だと考えている。全てが最初からダメなわけではなく、やり方によって結果は変わってくる、ということは事実だからだ。

泣く、叫ぶ、暴れるなどの子どもの行為は他にやり方がわからないだけで、もっと効率的な方法があることを知らないからだが、そのような場合多くの養育者は他のやり方があることを伝える余裕がなく、その場をなんとかやり過ごすために不本意ながら仕方なくキャンディーを与えることになるパターンが多いだろう。

どちらにせよ、結果的に子どもはキャンディを手に入れるわけだが、どちらが双方にとって負担が少ないかは一目瞭然である。

このノートの読者の方には保育に携わるプロの方もいらっしゃるようで、時折応援のお便りやアドバイスをいただいたりもするのだけれど、その内容は非常に勉強になることが多く、とても感謝している。
先日は「応用行動分析」(ABA)というものがあることを教えていただき、非常に参考になった。
これは子どもが何かしらの行動を起こす前の状況と、起こした行動、そしてその後の状況、つまり行動の「きっかけ」「起こした行動」「その結果」というものを分析し、子どもにとって有益と思われる行動を強化し、不利益になるようなものを消去していく、というもので、シンプルだが実に理に叶った考え方である。
極端に言えば、泣いたり暴れたりした場合はお菓子はなかなかもらうことはできないが、先に挙げたようなより高度なコミュニケーション能力を身につければもらえる可能性は格段に上がる、ということである。このような結果を認知すれば子どもは泣き叫ぶ必要はなくなり、養育者が困り果てることも少なくなる。
このようなものをソーシャルスキル、社会心理能力などと呼ぶこともあるが、正直、自分はどんな優秀な成績や学歴よりも子どもに身につけて欲しい力だと思っている。なぜかというと、自分も含めた今の大人にこそ、その力が必要だと感じることが多いからだ。自分にそんな能力がしっかり身に付いていたら音楽なんてやっていなかったのかもしれないが、育児は子どもと一緒にお互いのソーシャルスキルを高めていく機会でもあると思っている。

(by 黒沢秀樹)

『できれば楽しく育てたい』黒沢秀樹・著 おおくぼひでたか・イラスト

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※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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