『きょだいな きょだいな』(長谷川摂子・作 降矢なな・絵 福音館書店)
「あったとさ あったとさ」
昔話風のリズムに乗って、巨大なものが現われます。
ピアノ、せっけん、あわたて器、その大きさはどれも、常識をはるかに超えています。
そこへやってきた100人の子どもたちが、遊んだり、眠ったり、イタズラしたり、なんともスケールの大きなナンセンスが展開されます。
降矢ななさんの絵は単純な水彩画ではなく、切ったり貼ったり工夫を凝らしたもので、ふしぎなことが起こる空間を見事に造りだしています。
その空間の案内人のように小さなキツネが登場するのですが、このキャラクターは長谷川さんの初めの構想にはなく、降矢さんのアイデアで加えられたということ、作家と画家のいい協力関係がうかがわれます。
ところで「きょだい」というのは、子どもにとって、あまりなじみのない言葉かもしれません。しかし、だからといって子どもが受け止められないと思うのは早計です。
言葉の力というのは使い減りするものです。最高のほめ言葉もしょっちゅう口にしているとなんだか安っぽくなってくるように。
この絵本の「きょだい」という言葉は、なじみがないゆえの強烈なインパクトで子どもたちに伝わるでしょう。とてつもなく大きなピアノやせっけんのイメージは、彼らの想像力を広げ、その心の奥に長く残るだろうと思われます。
この本が気に入った方はぜひ、同じコンビによる『めっきら もっきら どおんどん』『おっきょちゃんとかっぱ』(いずれも福音館書店)もご覧になってください。一冊ごと、お話にあわせて違った世界を造りだす降矢さんの芸が、よくわかります。
(by 風木一人)
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