『ぼくの鳥あげる』(佐野洋子・作 広瀬弦・絵)を編集して(2)

広瀬弦さん

デザインを一新したいという方針は決まった。挿絵をどうするかは悩んだ。93ページの本にモノクロ線画の挿絵が15枚ある。佐野洋子さんの絵だから悪いわけはない。しかし大人向けの本に作り直すと考えると、今の絵がベストとは思えなかった。文章は大人向けだが、挿絵は子ども向けの気がした。といって変更するなら誰かが佐野さんの代わりに描かなければならない。誰が?

そのころのある日、図書館で『あっちの豚こっちの豚』を読んだ。これは興味深い歴史を持つ本だった。1987年に小峰書店から「佐野洋子・作 広瀬弦・絵」で出た本を2012年に小学館から「佐野洋子・作絵」で復刊しているのである。
佐野さんが亡くなられたのは2010年だ。2012年版『あっちの豚こっちの豚』の絵はじつは1987年にすでに描かれていたのである。佐野さんの絵がありながら未発表のままお蔵入りしていたには面白いイキサツがあり、広瀬弦さんによるあとがきにそれが書いてある。

こういうこともあるのか、と思った。
「広瀬弦・絵」を「佐野洋子・絵」で出し直した本がある。
だったら逆があってもいいんじゃないか?
佐野洋子・絵だった『ぼくの鳥あげる』を広瀬弦・絵で出し直そう。
ぼくは広瀬さんがこの本にどんな絵を描いてくれるか想像した。
目の前の霧が晴れるように新しい本のイメージが生まれてきた。

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さあ、構想が具体的になってきて、動き出すときだった。
亡くなった作家さんの本を出したいなら、まず著作権を継承している方に連絡しなければならない。
ふつうに考えて息子さんでありイラストレーターである広瀬弦さんであろうと考えた。
近い業界にいるとはいえ面識はない。どうしようかと思っていたらちょうど青山のスペースユイで個展があるという情報を得た。頻繁に展覧会をされる方ではないのでラッキーなタイミングだった。

作品でのみ知っている人に初めて会うのはいつも少し不思議な体験である。
会場でごあいさつした広瀬さんは、大きな目が印象的な人だった。そしてこれはこのとき知ったわけではないが、ぼくと同い年である。初対面だし、絵を見る場であるし、いきなり復刊の話はしなかった。それでもお会いした感触から今後うまく進められそうな気がしてほくほく帰ったのを覚えている。

(3)につづく

(by 風木一人)


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