ふくながじゅんぺいさんの快作『へび ながすぎる』が本当に長すぎる

へびながすぎる ふくながじゅんぺい 絵本 こぐま社

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『へび ながすぎる』ふくながじゅんぺい作 こぐま社

表紙だけで想像がふくらむ絵本

表紙を見ます。タイトルが『へび ながすぎる』です。だからへびの絵本だろうと思うけれど、へびがいません。
うさぎが5匹いて、緑のホースみたいなものが描かれています。
ははあ。さては緑のホースがへびなんだな? 頭もしっぽも描かれていないけれどきっとこれがへびなんだ。
待てよ。そう思わせておいてこれがへびじゃないとか、これ以外のものがへびだなんて落とし穴が用意されているのかもしれないぞ……。

表紙だけでこれだけ想像がふくらめば、もう面白い絵本とみて間違いありません。

ぼくも絵本作家なので、作る立場から『へび ながすぎる』を見ると、この絵本には2つのポイントがあります。
1つは、読者が知っていることを登場人物が知らないという構造です。

中身を読んでみると緑のホースはやっぱりへびなんですが(これはネタバレじゃないでしょう)、登場する動物たち(ねずみやうさぎやゴリラや鳥たち)は気がついていないのです。頭もしっぽも見えなくて長い長い胴体部分だけなので、へびとは夢にも思わず、滑り台にしたり縄跳びにしたり、遊びたい放題にしています。

読者は1ページ目にしっぽが描かれていることと、「へびながすぎて……だれもこれがへびだなんてきづかない」という文章によって、緑のホースがへびであることを知っています。
だから、動物たちがいつか、おもちゃにしていたものがへびだったと知る瞬間が来るんじゃないか、とハラハラします。そのとき何が起こるんだろうとドキドキします。

読者は知っているけれど登場人物は知らない。そこから面白さが生まれてくる。このテクニックを使った絵本はときどき見かけます。有名どころではたとえばパット・ハッチンスの『ロージーのおさんぽ』です。ぼくも『おしゃれなのんのんさん』で試みています。うまく使えばとても効果的です。絵本を作る方は参考にされるといいと思います。

ロージーのおさんぽ

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描かない部分こそが読者の想像力を刺激する

もう一つのポイントは「描かないという描き方」です。
『へび ながすぎる』のへびは、表紙だけでなく、中身を見ても、ほとんどのシーンで胴体だけです。頭としっぽは描いてありません。へびにはもちろん頭としっぽがあるし、このへびも例外ではありませんが、あえて描かないのです。描かないことによってこの絵本の面白さが生まれてくるのです。
絵本において、何を描くかが大切であるのと同じくらい、何を描かないかが大切です。描かなかった部分こそが読者の想像力を刺激するからです。

ながいながいへびのはなし 風木一人・作 高畠純・絵

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ぼくも長いへびの絵本を作っています。『ながいながいへびのはなし』(風木一人・文 高畠純・絵 小峰書店)です。
この2冊を並べるととても興味深いことに気がつきます。どちらも長いへびの話で、その途方もない長さを表現するために「描かないという描き方」を採用しています。
しかし描いた部分と描かなかった部分は正反対なのです。『へび ながすぎる』は胴体を描いて頭としっぽは描いていません。『ながいながいへびのはなし』は頭としっぽを描いて胴体(の大部分)は描いていないのです。

ふくながじゅんぺいさんは小川国夫さんの書画に「蛇長過ぎる」と書いてあったのを見たのがこの絵本を作るきっかけだったと語っています。
ぼくもやはり、へびは長い、なんでこんなに長いんだろう、もっともっと長かったらどんなことが起こるだろうと考えているうちに絵本の話が浮かんできたのだったと思います。
へびは長い。とんでもなく長い。それに驚き、不思議がり、面白がる気持ちからスタートしても、作家が違えばまったく違う作品が生まれてくる。創作というのはそういうものです。

ふくながじゅんぺいさんと初めてお会いしたのはある絵本講座でした。『うわのそらいおん』でデビューされたばかりのころだったと思います。ぼくの『とんでいく』がとても好きだと話してくださったのを嬉しく覚えています。
それからおつきあいが始まり、BFUギャラリーの個展もお願いしたし、ホテル暴風雨展にも参加していただきました。いつも新しい顔を見せてくれるのに驚いたものです。

『へび ながすぎる』でふくながさんは一皮も二皮も剥けたといっていいでしょう(へびだけに笑)。今後ますますのご活躍を確信しています。

(by 風木一人)


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