『ぴっつんつん』(もろかおり・絵 武鹿悦子・文 後路好章・構成 くもん出版)
ときどきこういう本があります。
読めばすぐに素晴らしさがわかるのに、読んでいない人にそれを伝えるのは難しい本。
感覚的で言語化できない気分のようなものでできている本。
あなたが目の前にいるなら「はい」と差し出せばすむのですが、ここではそうもいきません。
雨の日、ひとりの子どもが歩いています。赤いかさ、赤いレインコート、赤い長靴。
そこへ友達がやってきます。黄色いかさ、黄色いレインコート、黄色い長靴。
他の子たちもやってきて、みんな色違いのいでたちで陽気にわいわい遊びはじめます。
「あめが つんつん ぴっつんつん」
「たんたん たたん たん たたん」
軽やかに踊るような色鉛筆のタッチと、ジャズの即興演奏を思わせる弾む言葉たち、ページを繰るごとあふれだすみずみずしさはただごとでありません。この楽しさはなんでしょう。
昔、小学校の図工の時間、クラスに一人すごいクレヨンセットを持ってくる子がいて、思わず目を丸くしたことがありました。こんなにもたくさんの色があるなんて! それにみんな名前がついているなんて!
この絵本の画家と作家は今も同じような無垢な感動を持ち続けているような気がします。
かさをたたく雨音の楽しさ、水たまりを踏む音と感触の快さ、かさをくるくる回す嬉しさ、どろんこになる喜び。理屈も何もない、まっさらな心のふるえ。それがダイレクトに伝わってくるのがこの絵本の魅力でしょう。
これほど新鮮な絵本とはめったに出会えません。もろかおりさんはこれが絵本デビュー作ですが、武鹿悦子さんは大ベテランです。新しい感覚は新しい人からくると思っていたのは間違いでした。感覚の柔軟さ、鋭敏さは、必ずしも年齢には依存しないようです。
(by 風木一人)
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