谷内こうた展「風のゆくえ」1週間で起きた革命

ちひろ美術館に谷内こうたさんの個展を観に行った。

谷内こうたさんは絵本を作り始めたころあこがれた作家の一人だ。
絵本原画、タブロー、雑誌表紙などのイラストレーションと、谷内さんの様々な顔を見ることができて満足だった。清涼感ある抒情が沁みる、夏に見るにはぴったりの展覧会だった。

キャプションに書かれたあるエピソードに、ものすごく驚かされた。

谷内こうたさんは二十歳のとき叔父谷内六郎の紹介で至光社の編集者武市八十雄と会う。そのとき「おじいさんのばいおりん」と「ぼくのでんしゃ」を見てもらいその場で採用される。
同時にビネッテ・シュレーダーの絵本や「あめのひの おるすばん」(岩崎ちひろ)を見せられて、絵本の世界が自分が思っていたよりもはるかに広く自由であることを知ったという。

驚くのはここから。
武市八十雄と会った1週間後に作ったのが第3作となる「なつのあさ」だが、これが前2作とは全然違い、いきなり「谷内こうた絵本」の原型を確立しているのだ。
このスパーク!

「おじいさんのばいおりん」と「ぼくのでんしゃ」のときは「絵本とはこういうものだろう」という先入観があり、それに沿って作ったのだろう。
しかし、もっと自由でいいのだと思ったら1週間で革命が起きたのだ。

作家にはそういうことがある。ひとつのきっかけで丸ごと新しい自分が出てきてしまうようなことが。何度もはない。しかしどんな作家にも一生に一度はあるのではないか。

じつは今回見ながら「谷内こうたさんの作風を継いでいる作家はいないなあ」と思っていた。しかしあとから考えれば、そのままではなくても一部を引き継いだ、どこかに重要な影響を受けた作家はたくさんいるような気もする。

谷内こうた展「風のゆくえ」は10月1日(日)まで。

平日のちひろ美術館は空いていてじっくり見られますよ。

(by 風木一人)


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