世界は意外と近い?日本の絵本の海外進出。アジアから欧米へ。

初めての絵本『とんでいく』(こどものとも2000年11月号 福音館書店)が出て1年もたたないうちに韓国語版出版の話が来た。驚いた。自分の絵本が外国で出版されるなんてあるとしても遠い先だと思っていたからだ。
その後数年のうちに『ながいながいへびのはなし』や『あるひそらからさんかくが』にも海外版の話がきて、どうやら日本の絵本が他の国で翻訳出版されるのは珍しいことではないらしいとわかってきた。
今ではフランス、韓国、中国、台湾で合わせて10冊の海外版が刊行され、これから出る予定の本も7冊ある。
これは日本の絵本が国際的に高く評価されているからといっていいだろう。
ただし偏りはあって、アジア、特に中国・韓国・台湾が突出して多く、欧米で翻訳されることは少ない。ぼくの絵本でもそうだし、日本の絵本全体でも同じ傾向だ。

日本の創作絵本は石井桃子さんや松居直さんの時代から欧米に学んで発達してきた歴史がある。欧米の編集者にすれば自分たちのほうが先輩という先入観があるのかもしれない。
しかしアメリカ・イギリスの絵本もそれなりには読んできて言うのだが、レベルで負けているとは感じない。日本の絵本は欧米に学びつつも明らかに独自の進化を遂げてきた。あるのは優劣ではなくそれぞれの個性だ。日本にはない絵本がアメリカにあるように、アメリカにはない絵本が日本にはある。これからもっともっと欧米に紹介されるべき優れた作品がたくさんあると思う。
岩崎書店の岩崎弘明前会長にインタビューさせていただいたとき、岩崎会長は「将来的には欧米もだが、まずは東南アジア」とおっしゃっていた。【 インタビューへ

優れた本を作れば自動的に海外出版されるわけではもちろんない。出版社か、その意を受けた版権エージェントか、あるいは作家自身か、誰かが売込みの努力をすることによって作品は海を越える。
日本の出版界は明治以来ずっと、この件に関しては努力不足だった。欧米の本を翻訳出版するのには熱心だったが、日本の本を海外に広めていくことには不熱心だった。
日本の人口が中途半端に大きかったことも原因の一つだろう。国内需要だけでも一応やっていけるので、世界に挑む意欲に乏しかった。出版不況が来て、国内だけでは厳しくなり、やっと世界に目を向ける人が増え始めた。
児童書出版社で版権セクションを持っているところはほとんどなかったが、今は増えた。エージェントに丸投げではなく、できることは社内でやろうとしている。ある出版社では、版権セクション立ち上げ後2年で、海外出版点数は6倍にもなったという。やればやっただけのことはあるという勇気の出る数字だ。

翻訳版刊行の際、著者がする仕事はそんなにない。
条件を聞いて問題がなければオーケーし、あとは待つ。半年で出ることもあれば2年かかることもある。3年過ぎてまだ出ていないのもある。あれはどうなってるんだろう?
契約では多くの場合、18ヶ月以内に出版すると明記されているが守られないことも多い。ある版権エージェントの人は「そんなもんです」と言っていたが、ふつうに考えて契約書に書いたことは守った方がいいだろう。

自分の作品が外国でどんな姿になるか、それは気になる。たいてい、いきなり完成品が届くのではなく、一度は確認の機会がある。
大きな変更があれば早い段階で相談してくれることもあるが、そうでなければほぼ完成してからPDFが送られてくる(画家にはちゃんとした色校が届いているかもしれない)。
一応見る。見るが、訳文がいいものであるか、ぼくにはチェックできない。そういう能力がない。だから何も言ったことはない。
完成して現物が届いたら、原書(日本語版)と違う点は細かく見ればたくさんある。
色はいつだって多少違うし、本文用紙の厚さや手触りも違う。判型が違ったこともあれば、タイトルがだいぶ違ったこともある。
そのへんは別に気にしない。たとえば中国語版なら中国の読者が読むわけだが、中国の読者を知っているのは中国の出版社だろう。国が違えば、様々なことが違う。何も知らない者が口を出してもいいことはない。信じて任せるのがいいと思う。

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『ながいながいへびのはなし』はフランス、韓国、中国、台湾の4カ国で出版されている。はじめはぼくの頭の中にしかいなかった「ながいへび」が絵本になって多くの読者と出会い、翻訳されることによって海外の読者とも出会えることになったのは信じられないほど嬉しいことだ。
異国で、その国のお母さんがその国の子どもに、ぼくにはわからない言葉でぼくの絵本を読んであげていると想像すると、いまでもとても不思議な気持ちがする。

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