アンデルセンの知られざる名作
こんにちは。ホテル暴風雨・オーナー雨こと斎藤雨梟です。
突然ですが、ヨハン・セバスチャン・アンデルセン作『大きなうみへび』という童話を知っていますか。アンデルセンというと『赤いくつ』『マッチ売りの少女』や、ディズニーの映画の原作でもある『人魚姫』『雪の女王』などが有名です。
それらに比べるこの『大きなうみへび』、まったく知られていませんが、とても面白く、アンデルセンの意外な一面を見られる作品なのです。
何しろ、楽しく、かわいらしく、ユーモラスで、しかも2020年代の現代を予言しているようなお話です。この作品の魅力について、お話したいと思います。
この童話のどこが素敵なのか、語る前にはまずアンデルセンについて、アンデルセンの生きた時代について語らねばなりますまい、ということで、今しばらくお付き合いください。
アンデルセンは海底に沈む巨大なうみへびの夢を見た!
アンデルセンというと、美しくもどこか物悲しく切ない物語というイメージがないでしょうか。実際、そういう作品はとても多いのですが、『大きなうみへび』はだいぶ趣きが違います。
本作はなんと、「大西洋横断海底電信ケーブル」を題材にしているのです。大西洋の底に横たわる長大なケーブルを「うみへび」に見立てた、なんだか落語みたいなお話です。
ちょっと待って、アンデルセンっていつの人? と混乱してきませんか。
アンデルセンは1805年生、1875年没。日本でいえば江戸時代から明治時代にかけてを生きた人です。意外と新しい人だったんだ、と私は感じました。お姫様や王子様、踊り子や兵隊さんなどが登場し、中世的な雰囲気の物語も多いので、もう少し古い時代の人かと思っていたのです。
よく考えれば『マッチ売りの少女』の重要アイテム・マッチは19世紀に登場したものですから、中世を生きた人のはずがないのですが、アンデルセンの作品が「普遍的なものへの憧れ」を感じさせるせいでしょうか。
普遍的なものを好む人には大きくふた通り、変化の中にあっても変わらないものを見つけたいがために「新しいもの好き」となるタイプと、新しいものにはまだ宿っていない太古からの普遍性があると信じるため「古いもの好き」となるタイプがいるのではないでしょうか。
アンデルセンは圧倒的後者のイメージでしたが、晩年になって世間を騒がせた海底ケーブルに興味を持ち、作品を残すというあたり、意外と新しいもの好きな面もあったようです。
アンデルセンの追求した普遍性とはどんなものか、どうして『大きなうみへび』が現代を予言しているのか、は次の記事で書きます。よろしければまた、お付き合いください。
文学フリマ東京に『大きなうみへび』が!
さて、上の写真は高橋健二訳・斎藤雨梟絵『大きなうみへび』。お気づきでしたでしょうか、実は私が絵を描いた本です。以前、「ギャラリーまぁる」で、12人の画家が装丁家とペアを組んでアンデルセンの本を作るという企画展がありました。どのお話を本にするかは画家の選択に任されたのですが、その時、アンデルセンの童話集全8巻を読み、その中から私が選んだのが何を隠そう『大きなうみへび』なのです。装丁は丸尾靖子さんが担当してくださいました。
限定版のこの本、きたる2024年12月1日に開催される「文学フリマ東京」に連れて行きます。(イベント詳細やホテル暴風雨のブースについてはTwitterなどで告知します)
アンデルセン作『大きなうみへび』については、次回に続きます。どうぞお楽しみに!
次の記事はこちら↓
知られざるアンデルセン<2>晩年の名作『大きなうみへび』から感じられる未来への思い
(本記事は、以前「雨梟の多重猫格アワー」に掲載した文章を再編集したものです)