電車 居眠り 夢うつつ 第25回「夢、覚えていますか?」

前回、自分の見た夢をネタにしたら、風木オーナーから「僕はほとんど夢を覚えていないよ」と言われた。
私はわりに夢をよく覚えている方だと思う。一時期、夢日記をつけていたことがあったが、だいたい1週間に2つくらいは覚えていた。多い時で4つか5つ。ゼロということはなかった。これは、割合にするとどれくらいなのだろうか。

教科書的には、人は睡眠中のレム睡眠という時期に夢を見る(*)。
レム睡眠は、脳波や眼球運動を測定するとわかるから、ある研究者が、被験者に脳波計をつけて寝てもらい、レム睡眠になるたびに起こして質問するという実験をした。すると被験者は80%以上の確率で夢を見ていたそうである。
一晩の睡眠でレム睡眠は通常4〜5回起こるから、1回のレム睡眠で夢をひとつ見ると仮定すると、普通の人は毎日三つか四つくらい夢を見ると期待できる。1週間なら20個以上である。
そうすると、私が夢を覚えている確率は1割程度ということになる。「よく覚えている」などと言っても、9割以上は忘れているわけだ。

夢を覚えておくコツというのはある。目が覚めて、夢を見たなと思ったときに、どんな夢だったかをしっかり言葉にして(他人に説明するように)反芻することだ。それをすると、かなりよく覚えていられる(**)。
それでも、朝目覚めてからしっかりと言葉にしたにもかかわらず、その日のうちに忘れてしまうこともある。まあ夢だから仕方がない。
が、そのとき私が忘れたのはなんだろう? 元は夢とはいえ、目覚めた状態で意識的に言葉にしたことを忘れたわけである。夢だけではなく、意識的な思考まで忘れてしまったことになる。

そもそも私たちは、自分が考えたり経験したことを、どれくらい覚えているものなのだろう。覚えているつもりのことでも、本当は覚えていないことが多いのではないだろうか。
例えば私は毎日の通勤電車の中で、いろいろなことを考える。ときにはそこで考えたことが、このコラムのネタにもなる。
だが、良いネタを忘れないでいるためには、私はメモを取らないといけない。メモを忘れると、「良いネタを思いついた」という記憶だけが残って、肝心のネタは跡かたもなく消滅という、悲しい事態になる。
これは私に限ったことではないようだ。新聞の川柳コーナーなどを見ると、「ネタが浮かんだときに限ってメモ帳がない」という類のぼやきの句が時折見られる。(とてもよくわかる。心よりご同情申し上げたい。)

考えたことだけではない。見たもの、聞いたものだってそんなに覚えてはいない。電車で乗り合わせた人たちの顔、耳に入った高校生たちの会話、そのどれだけを翌日まで覚えているだろう。そういう風に考えると、私たちは、自分が見たこと聞いたこと考えたことのほとんどを忘れているのではないだろうか。
歳を取ると忘れっぽくなるという。私にも身に覚えが十分ある。だが、忘れっぽくなると言っても、もともと95%くらい忘れていたのが97%か98%くらいになるだけだと思えば、なんだか気が楽になりませんか?

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(*)ノンレム睡眠でも夢は見るが、長くてドラマチックな夢は、レム睡眠の特徴なのだそうだ。
(**)その場でノートに書くのが良いのだが、短い夢でも文章にするとそれなりの分量になる。簡潔にまとめようとすればそれはそれで時間がかかる。朝の忙しいときにそれをするのは、なかなか難しいだろう。

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