なにわぶし論語論第63回「一言にして邦を興すもの、邦を喪うもの」

定公(ていこう)問う。一言にして以(も)って邦(くに)を興(おこ)す可(べ)きもの、諸(こ)れ有りや、と。孔子対(こた)えて曰く、言(げん)は以って是(かく)の若(ごと)くなる可からざるも、其(そ)れ幾(ちか)きか。人の言に曰く、君(きみ)爲(た)ること難く、臣爲ること易(やす)からず、と。如(も)し君爲ることの難きを知れば、一言にして邦を興すに幾からずや、と。曰く、一言にして邦を喪(うしな)うもの、諸れ有りや、と。孔子対えて曰く、言は以って是の若くなる可からざるも、其れ幾きか。人の言に曰く、予、君爲るを楽しむ無し。唯(ただ)其れ言いて、予に違う莫(な)し、と。如し其れ善にして、之に違う莫ければ、亦(また)善ならずや。如し不善にして、之に違う莫ければ、一言にして邦を喪うに幾からずや、と。(子路十五)

――――魯国の国王である定公が孔子に下問された。「一言で国を繁栄に導くような言葉はあるか」。
孔子は答えた。「言葉にはそのような力はございませんが、いくらか近いものとしては、これでしょうか。ある人の言葉に、「君主であることは難しく、家臣であることは簡単でない」というのがあります。もし君主が、君主であることの難しさを理解するなら、それは、国を繁栄に導くのに近いのではないでしょうか」。
さらに定公が問われた。「一言で国を滅ぼすような言葉はあるか」。
孔子は答えた。「言葉にはそのような力はございませんが、それに近いものとしては、これでしょうか。ある人の言葉に、「(ある国王がこう言った。)予は国王であって楽しいことはない。ただ、予が何か言って、それに逆らう者はない」。もしその王の言葉が正しくて、それに逆らうものがなければ、それは良いでしょう。もし王の言葉が間違っているのに、逆らうものがなければ、それは国を滅ぼすことに近いのではないでしょうか」――――

定公の時代は、孔子の政治家としての絶頂期である。中都の宰(知事)に任命された彼は外交でも活躍し、1年後には大司寇という司法の責任者となり、宰相代行まで務める。だがその後まもなく彼は政治の表舞台を去ることになる。

定公が孔子に、「一言で国家を繁栄に導くような言葉はあるか」と質問した。そんな言葉があるわけはない。定公がそのような質問をしたというのは、孔子の弁舌の巧みさをよく知っていたからだろう。
この質問に対し、孔子は「言葉にはそのような力はございませんが」と前置きしながら、やっぱり巧みな答えをしている。「君主が、君主であることの難しさを理解するなら、それは、国を繁栄に導く」というのだ。
「一言で国家を滅ぼすような言葉はあるか」という問いには、「予は国王であって楽しいことはない。ただ、予が何か言って、それに逆らう者はない。」と言う言葉を引用し、「もし王の言葉が間違っているのに、逆らうものがなければ、それは邦を滅ぼす」と言うのだ。当意即妙とはこういうことだろう。

国でなくても、どんな小さな集団でも、「長」というのはとても面倒な仕事である。普通の人はやりたがらない。だが、それが面倒であることをよく理解した人が「長」となり、面倒なことを一生懸命やってくれれば、その集団は、うまく活動できる。反対に「長」が面倒を嫌がり、簡単に力づくで物事を進めようとすれば、悪い結果を招くだろう。
全国の「長」の皆さん、頑張ってください。孔子が応援しています。

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