電車 居眠り 夢うつつ 第38回「報告されています」

私も中年ど真ん中の年齢になったせいか、テレビの健康食品のコマーシャルが随分目につくようになった。いや、実際増えているのだろう。しかも、フ○ンケルとか、世田○自然食品とか、健康食品専門の老舗ばかりでなく、最近は大手の製薬会社や食品会社までが、健康食品に乗り出してきている。

いつ頃からだかちょっと判らないが、そういう健康食品のコマーシャルで、「・・・の効果があることが報告されています」というフレーズが耳につくようになった。ここ数年のことではないだろうか。
たぶんそれは正しい表現なのだろうが、なんとなく引っかかる表現である。
自分の会社の商品を宣伝しているのだから、「効果があります」とはっきり言い切ってくれればスッキリするのだが、「報告されています」だと、なんだか「私は知りませんけど、そう言ってる人がいるんですよ。私は知りませんけどね」と言われているような気がしてしまう。そんな気、しませんか?

ちなみに「・・・ということが報告されている」というのは、論文の中で先行研究を紹介するときの決まり文句だ。論文の中で読む分には全く違和感がないのだが、コマーシャルで聞くと、何か引っかかる。思わず、広告制作者と開発者のミーティングの様子を妄想してしまったりする。

開「えー、この食品を10日間食べた被験者群では、対照群と比べて〇〇の値が5%水準で有意に高くなっていました。」
広「それはつまり、これを食べると健康になるということですね。」
開「えー、この研究で言えるのは、この実験に参加した被験者さんでは、〇〇の値が高くなるということでして、健康に対する効果を断言するためには、さらにいろいろな実験をしませんと・・・」
広「・・・。つまり健康になるとは言えないと・・・?」
開「えー、いや、決してそういうことではなく、我々としてもこの商品が健康に良いとは考えているのですが、えー、今確実に言えるのは、我々の実験条件では、これを食べると〇〇の値が上昇するという結果が得られた、ということなんです。また実験条件を変えると、別な結果が出る可能性もあります。」
広「・・・。でも、その結果って、論文として発表されたんですよね? だったら、〇〇が上がることは確かなんですよね?」
開「はい。我々の実験条件では。」
広「・・・。わかりました。では、『〇〇が上がることが報告されている』でいきましょう。それなら構いませんね?」
開「はい。大丈夫、です。」

「報告されています」の一言に、開発サイドの良心と、販売サイドの希望が凝縮されているわけである。(もちろん、個人の感想です。)

(by みやち)

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