心・脳・機械(5)ロボット三原則と人間三原則

またアシモフの話に戻る。
前回、感情とは、ある対象や状況に対して接近あるいは回避しようとする衝動のことだ、という考え方について書いた。
そう考えると、アシモフの小説に出てくるロボットたちが、どうして人間臭いのかがわかってくる。彼らは、感情を持っているのだ。しかも、時には相矛盾する感情を。
アシモフのロボットたちには、必ず三原則というものが組み込まれている。

【第一条】 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
【第二条】 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りではない。
【第三条】 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

言い換えれば、このロボットたちは、人間の危険を回避しようとする衝動と、人間の命令に従おうとする衝動と、自分の身を守ろうとする衝動に突き動かされていると言える。ロボットだから「原則」といっているが、動物ならば「本能」というべきところだろう。

では、私たち人間の三原則はどうなっているだろうか?

【第一条】 人間は、自分の身に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、危害を及ぼしてはならない。
【第二条】 人間は、自分の欲求に従わなければならない。ただし、その欲求が、第一条に反する場合は、この限りではない。
【第三条】 人間は、前掲第一条および第二条に反する恐れのないかぎり、他の人間を守らなければならない。

随分シニカルな言い方だと思われるかもしれないが、本能としては、こういうものだろう。

第一条は当然だ。身を守る本能だ。中に大切な物があるからといって、燃えている家の中にそうそう飛び込めるものではない。
第二条は必ずしも第三条に優先しなくても良いような気がする。だが、例えばあなたは、飢えているアフリカの子供たちのために、全財産の半分を寄付することができるだろうか?

ただし、人間はロボットと違い、よく間違えるものである。優先順位が狂ってしまうこともあるだろう。また、ロボットと違い、人間は家族とか社会という集団を持っている。そういう人間集団には、当然、個人の三原則とは違う三原則があるだろう。

(by みやち)

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