倫理は、単なるルールとは違い、情動に裏付けられているものである、というところから話を進めてきた。
孟子が言うように、井戸に落ちそうな子供を見ると、一瞬「あっ!」と思うといった反応はおそらく誰にでも起こることから、このような利他的な情動反応は、生得的な、いわば本能というべきものと考えられる。しかし、誰もが常に利他的に行動するわけではない。ということは、利他的な本能は、存在はしても、それほど強くはないのだろう。世界中のおそらくあらゆる文化で利他や自己犠牲が賞賛されているが、そのように称賛されると言うこと自体が、本能的な利他性はあまり強くない、少なくとも人間社会を円滑に成り立たせるのに十分なほどは強くないことを示しているように思われる。
このことを書いていているうちに、「チンパンジーのベッド」の話を思い出した。
以前このホテル暴風雨で書いたことがあるのだが、チンパンジーは夜寝るときに、木の枝でベッドを作るのだそうだ。たくさんの細い木の枝を織り込んで、丸い形のベッドを作り、その上で眠る。「チンパンジーのベッド」で検索すると、画像が出てくるので、興味のある方は検索していただきたい。(ただし、おそらくトップに上がってくるのは、チンパンジーのベッドを模倣した「人類進化ベッド」と称する人間用のベッドである。)
ただし、実用になるベッドを作ることができるのは野生の群れ育ちのチンパンジーだけで、動物園で人に育てられた個体は、木の枝などの材料をもらうと、ベッドづくり「のようなこと」はするが、きちんとしたベッドにはならないそうである。つまり、ベッド作りという行動の基本は本能的なものだが、学習なしには、ベッドという実用的なものを完成させることはできない。実用に耐えるベッドを作るには、幼少期に群で育ち、大人のベッド作りを見ることが重要のようだ。 https://www5.city.kyoto.jp/zoo/crew/crew-blog/research/20200701-40816.html
だから、子供への道徳教育が重要だ、と言うことになるだろうか。
チンパンジーは、子供にベッド作りを教えはしない。子供が大人の行動を見て勝手に学ぶのである。
(結局今回は、脳の話にはならなかった。)
(by みやち)