電車 居眠り 夢うつつ 第54回「アルコール消毒液に関する自由研究」

先週夏休みを取ったばかりなのに、本格的な冬も目前である。寒くて乾燥した冬は、手荒れの季節でもある。私は仕事柄、手洗いをすることが多いので、毎年冬には手荒れで悩まされる。指はいつもがさがさで、靴下をつまみ上げたら、手を離しても指にくっついたままになる。
最近は、昔ほど寒くないせいか、こまめにハンドクリームを使うようになったせいか、あかぎれは減ったのだが、逆剥けはやっぱりできる。
それに加えて今年は、コロナ対策ということで1日に何度も手のアルコール消毒をしないといけない。私の手の皮膚は、この冬を乗り切れるのだろうか?

そこで私は考えた。アルコールに、オイルを入れればいいじゃないか。消毒に使われる、エタノールなどのアルコール類は、水とも混ざるが油とも混ざる。(台所の油のベタベタなども、固まってないうちにアルコールで拭けば綺麗に落ちる。)ならば、初めからアルコールにオイルを混ぜておけば良いではないか。

テレビのコマーシャルで、オリーブオイルをハンドクリームがわりに肌につけるというのをやっていた。オリーブオイルを溶かしたアルコールで手を消毒すれば、アルコールが揮発した後にはオリーブオイルが残って皮膚を守ってくれるに違いない。我ながら良いアイディアだ。夏休みは先週終わってしまったが、夏休み後の自由研究として手に優しいアルコール作りに取り組むことにした。

やることは簡単である。家にある消毒用アルコール(エタノール80%)を小さなスプレー瓶に入れ、そこへオリーブオイルを垂らす。どれくらいの量を入れれば良いかわからないが、とりあえずアルコール:オイル=10:1で試してみた。
フタをしっかり閉め、ガシャガシャ振る。手を止めて、瓶の中を見る。すると、なんと、期待に反して瓶の底に黄緑色のオリーブオイルの層ができているではないか。エタノールは、水にも油にも溶けるが、水と油を両方溶かすことはできないのか。
実験は失敗である。が、悔しいので、よく振り混ぜてから手にスプレーしてみた。よく手に刷り込み、アルコールが乾くと、皮膚がスベスベしてきた。まあ、オイルの効果は出ているわけだ。あとは、きちんと溶解してくれれば、、、。

未練たっぷりに消毒用アルコールとオリーブオイルの混合物を見ていると、あることに気がついた。瓶の底のオイルの層は、澄んだ黄緑色だが、上の水/アルコールの層は、いつまで経っても濁ったままだ。完全には分離していない。水と油がマヨネーズのように混ざり合った、乳濁液(エマルジョン)という状態だ。アルコールが乳化剤の役目をしているのだろう。
アルコール自体は油を溶かすことができるのだから、水を減らしたら、もっとたくさん油を混ぜることができるのではないだろうか? そもそも、消毒用アルコールは、なぜ70%前後でないといけないのだろう? 以前どこかで、アルコール濃度が高すぎると、揮発が早すぎるので、水を混ぜるという説を読んだことがある。もしそうなら、水の代わりにオイルを入れても良いわけだ。

さすがにこれを自分で実験するのはしんどいので、ネットで調べてみた。なかなか役に立ちそうなサイトが見つからなかったが、最後に、花王株式会社のサイトで、同社の安全評価センターのグループリーダー、人見潤さんという人が書いている記事を見つけた。https://www.kao.co.jp/pro/hospital/pdf/08/08_05.pdf

仮にも花王株式会社のサイトで、グループリーダーの役職にある人が書いている記事であるし、一応信用して良いだろう。(自社製品の広告でもないし。)

それによると、70%アルコール水溶液中では、アルコール分子と水分子が1:1の割合で整然としたクラスターを作っており、その構造が、高い殺菌効果につながるとのことであった。
そうか。やっぱり高い殺菌力のためには水が必要なのだ。お肌のためのオリーブオイルは、ちょっぴりで我慢するしかなさそうである。ちょっぴりでもそれなりに効果はあることだし。

これにて、今回の自由研究は、終了。

(by みやち)

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