2回連続でお休みしてしまい、申し訳ありませんでした。けっして失踪していたわけでも、入院していたわけでもないのですが。本業の方で、ちょっと面倒な書類書きの仕事があったり、普段はやらない学部生向けの講義をしたりしていた物で、ちょっとあっぷあっぷでした。
私は大学の教員を名乗りながら、ここ数年学部生向けの講義をしていなかったのです。大学院の神経科学の講義は毎年やっているのですが。久しぶりにやってみると、やっぱり学部の講義と大学院の講義は違うなあと、しみじみ感じました。というわけで、今回は講義の話です。
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皆さんは、大学の学部の講義と大学院の講義の大きな違いは何だと思われるだろうか。
学部で基礎的な内容を教え、それに基づいて大学院ではより発展的な、あるいはより新しい知見について教える。そう思われる方も多いだろう。
それは、一部の教科についてはかなり正しいと思う。数学、物理学、化学といった、伝統的な教科については、カリキュラムがしっかり体系化され、確立している。物の本によると、物理学を力学、流体力学、電気力学、光学、熱力学、分子運動論、熱、放射などの項目に分けたのは、マックス・プランクだったとのことだが、今の日本の大学でも(高校でも)基本的にはこの区分に従っているはずである。数学や化学も同様にしっかりした体系が出来上がっている。
だが、神経科学は新しい学問だ。神経解剖学は19世紀まで遡れるかもしれないが、それも光学顕微鏡が普及した後のこと。生理学となると、実質的に20世紀半ば以降のものと考えてよい。現在でも統一されたカリキュラムがあるとは言い難い。
さらにいうと、日本の大学に、神経科学(あるいは脳科学)という名前のついた学部、学科は存在しない(たぶん)。理学部数学科、物理学科、化学科というのはあっても、理学部神経科学科はないのである。ということは、大学院の学生だからといって、学部生以上に神経科学の基礎知識を持っているなどということは期待できないのだ。というわけで、基本的に学部生向けの講義と大学院生向けの講義で内容を変える必要はない。
と、これまで信じていたのだが、今年初めて、その間違いに気づいてしまった。大学院生物科学専攻の学生は、神経科学については勉強していなくても、みんな細胞についての知識は持っている。だが、学部1回生の中には、細胞膜が何かを知らない学生もいるのだ!
やはり学部の講義をなめてかかってはいけなかった。急いで追加の資料を作って補足したが、危ないところだった。
でも、細胞膜くらい、高校の生物で習わなかったっけ? 数年前に教えた時は、細胞膜の説明までしなくても済んだけどなあ。
(by みやち)