【 ゲートラウンジ 】
そのゲートラウンジ(待機フロア)で旅客機の搭乗を待っていた客たちはざっと50人。ここまで乗ってきたKLMオランダ航空の乗客に比べてやや少ない感じがしたが、そんなことを言ってる場合じゃない。状況がさっぱりわからないので、とっさに「この空港のサベナ・ベルギー航空のカウンターに行こうか」と思ったが、それを探している間にこの乗客たちはどこに行ってしまうかわからない。彼らの様子を見ると、案内役のサベナ・スタッフはいないようだった。ということは、空港内のアナウンスを聞いて一斉に動き始めたのだろう。
(うーん、どうする?)
背中に冷や汗が流れるような気分だった。咄嗟の判断でサベナ・カウンターを探すのはやめて、彼らについて行くことにした。状況から見てゲートラウンジを移動しなければならないのだろう。ということは、サベナ飛行機の発着所が変更になったのだろう。そうとしか思えない。
彼ら団体の一番最後について歩きながら、対策を考えた。彼らがどこかのゲートラウンジに落ち着いた時点で、人の良さそうな客を選んでチケットを見せてもらおう。それしかない。あるいはそのゲートラウンジから飛行機に乗りこむ段階で、サベナ・スタッフが必ずいるはずだ。そのスタッフにチケットを見せたらいいだろう。
そこまで考えて、ようやく気分に少し平静さをとり戻した。
(やれやれ第1ハードルからしてこれだ)
苦笑しながら乗客たちについていった。背後から見た限りでは、乗客たちはスーツを着た男性が多かった。「見るからに旅行客」といった風情の乗客はあまりいないようだ。
(まあ、いいさ。とにかくシャルル・ド・ゴール空港にさえ行ければいいのだから)
腹をくくった。
【 プロペラ機 】
成田から旅客機に乗った時は、ゲートラウンジからボーディング・ブリッジ(ゲートラウンジと旅客機をつなぐ通路)を通って旅客機に入った。そのボーディング・ブリッジに入る手前で、スタッフがチケットを確認していた。どこの空港でも旅客機に乗るときはそうなのだろうと思っていた。
ところが私の前を行く乗客たちは、なんとドアを開けて外に出て行った。金属製の階段を降り、空港の地面に降りようとしていた。
再び緊張が走った。
(空港に降りる?)
(ボーディング・ブリッジじゃないのか?)
(本当にこの団体でいいのか?)
次の瞬間、階段の一番上に立った私の緊張と不安は、驚きに変わった。
(プロペラ機!)
乗客たちが向かっている先にはプロペラ機が待機していた。そのボディには「SABENA」の文字。
なんとブリュッセル空港からシャルル・ド・ゴール空港に飛ぶサベナ旅客機はプロペラ機だったのだ。
(プロペラ機ごときには、ボーディング・ブリッジはくっつけられないということか?)
「SABENA」の文字を見てホッとしたものの、なんとも皮肉な気分だった。
「これもまた格安海外ツアーの醍醐味、なんですかね?」と店長に言いたい気分だった。

ゆっくりと回転していたプロペラが、次第に高速で回転し始めた。すごい爆音だ。乗客たちは金属製の移動式階段を登り、次々に旅客機に入っていく。チケットは見せなくていいのか?
不安やら疑問やらで頭がぐちゃぐちゃになりそうな気分だったが、とにかくこの旅客機はサベナだ。ここからはざっと1時間でシャルル・ド・ゴール空港に着くのだから、プロペラ機だろうがなんだろうが構わないが、チケットは見せなくていいのか?
その不安は機内に入った瞬間にようやく解消した。そこにスチュワーデスが立っており、乗客たちはチケットを見せていた。
なるほどそういうことか。私もなんとか笑顔をつくって彼女にチケットを見せた。
ようやく安堵の気分が戻ってきた。機内に入ると、床は板張りだった。乗客たちの様子を見ていると、この旅客機ではどこに座ってもいいらしい。とりあえず最寄りの窓際に座り、ため息をついた。たぶんこの乗客たちの中で、私だけが「ベルギー〜フランスのサベナ機はプロペラ機」だと知らなかったのだろう。
(あの店長め!)
怒りとも笑いともつかない感情がムラムラと起こってきた。
(2機目がプロペラ機だなんて、一言も言わなかったぞ。帰国したら店に寄って、苦情を言ってやる!)
しかし結果的には「プロペラ機初体験」ということで、なかなか面白かった。
離陸からして、ジェット旅客機とはずいぶん違った。ジェット旅客機はいよいよスピードを上げて離陸する際、座席にグッと背中を押しつけられるような加速感がある。「おおっ、いまジェットエンジンの出力が上がったんだな。すごい加速感だな」と思っていると、やがて機体が宙に浮いた感触となる。
プロペラ機はその加速感、スピード感に比べてずいぶんのんびりした感触だ。
(お、走り始めたぞ)と思ったら、さっさと宙に浮いた。その浮き方もジェット旅客機のようなスマートでスピーディーな感じではなく、なんというか「よっこらせ」みたいな感じ。一度宙に浮いた車輪はもう一度滑走路に接触したらしい。浮いたと思ったら、機内にズシンと振動が走った。私は驚いたが、他の乗客たちは一向に気にしていないようだった。
【 つづく 】

