【 魔のウィルス 】15

【 予言者 】

「予言者」という人種には以前から興味があった。「予言」を信じるか、信じないか。あなたは信じますか?
仮に信じるとして、その能力はどのような形で発揮されるのだろうか。予言者はどのような形で未来を察知するのだろうか。水晶球を凝視してなにかビジュアルを得るように未来が見えるのだろうか。音声もあるのだろうか。興味はつきない。

予言とは「未来を語る」ことなので、副次的に「未来はすでに確定しているのか」という疑問も出てくる。さらには予言を知ることで「予言された未来は変更可能なのか」といった疑問も出てくる。しかし予言を知ってその未来を変更してしまえば、そもそも予言は存在しない。

この疑問の堂々巡りはSFにおけるタイムパラドックスとよく似ている。いわゆる「親殺しパラドックス」である。もしタイムトラベルが可能であれば、過去にさかのぼって、父と母が出会う前に(どちらかを)殺せばどうなるか。当然、自分は存在しない。したがって存在しない自分が親を殺せるはずがない。したがって父と母はめでたく出会い、自分はめでたく存在し、親を殺しに過去に行こうとする。なんともわけのわからない堂々めぐりとなる。結果、「だから過去に行くのは不可能だ」という理屈となる。また一方で「親を殺そうとして過去に何度行ったところで、必然的に全て失敗。親は絶対に殺せない」という理屈も出てくる。

【 ノストラダムス 】

さてBBの話。
COVID19を巡ってフィレンツェ在住の友人画家とメッセンジャー雑談を開始し、連日のように5通から10通ほどの会話を重ねていくうちに、話題に登場してきたノストラダムス。フランス美女にもBB(ブリジット・バルドー)にも興味はないが、「ノストラダムスの信奉者」という点に興味を持った。BB(フランス女性のニックネーム)はノストラダムスを主題にして絵を描く画家であり、信奉者であり、研究者らしい。

「2ユーロのコイン2個でタロットカード占いもする」
「2ユーロのコイン2個?……日本円でどれぐらい?」
「ざっと480円だね」
「ははあ、日本で言えば500円の1コインだな」

BBと直接会話できないのは残念だが、友人を介してBBからノストラダムス研究の話を聞き出せるかもしれない。早速友人にその旨を打診したところ、じつに迅速に快諾。とにかくそれを理由にBBと会話できることを喜んでいる様子。同棲の女性(イタリア人)がいながらオイオイと思うのだが、余計なことは言いたくないのだが、思わず「日本男児としてイタリア男のよろしくないところに染まるようなマネだけは注意していただきたい」と送った。猛反撃が来るだろうと予想していたのだが、案の定。

「日本男児!……さすがは京都出身だな。戦前の教科書に出てきそうな言葉だな。いつまでたってもそんな前時代的なお堅いことを言ってるから日本男児はダメなんだ。そんな倫理社会の教師みたいなコトを言ってないで1年ほどイタリアに来ないか。人生がきっと楽になる」

いよいよイタリアでの生活をやばいと感じ「日本に逃げ戻ったらひとつよろしく」といったメッセージを送ってきたヤツがなにを言っとるんだと失笑したが、別の友人から「半年ほど海外で生活したら人生が楽になった」という趣旨の話は聞いたことがある。二人いた。それぞれの「海外」はインドと台湾だった。
それはそうと話がノストラダムスになってくると、当初の「生物学魔談」看板はいよいよあやしくなってきたのでここらで降ろし、以後はシンプルに「魔のウィルス」で続けていきたい。なにしろ脱線はおろかそのまま線路なき草原を暴走するような話なので、御容赦ありたい。

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さてノストラダムス(1503 – 1566)。
日本では1973年に発行された「ノストラダムスの大予言」(五島 勉)が有名である。とりわけ以下の詩が大きく注目された。

1999年7の月、
空から恐怖の大王が来るだろう。
アンゴルモアの大王を蘇らせ、
マルスの前後に首尾よく支配するために。

五島さんは「ノストラダムスの大予言」でこれを人類滅亡と解釈し、一気に話題となり、240万部ベストセラーとなった。多くの人々が固唾を飲むような気分で1999年7月を待った。
しかし1999年7月に人類は滅亡しなかった。少なくとも240万の日本人が「なんだ、はずれたじゃん!」と胸を撫でおろす気分だったにちがいない。しかしBBによれば……
「あの詩で大騒ぎしたのは日本だけ。フランスではもともと人類滅亡と解釈してない。日本人は五島さんに上手に騙されただけ」

「……じゃあ、フランスではどう解釈してる?」
「これがまたいっぱいあるらしい。異星人説、隕石説、ミサイル説、噴火説……そういうのは1999年7月に全部消えたが、いまだによくわからんということらしい」
「ふうん。BBが特に興味を持って研究している予言とか、そういうのはあるのか?」
「ある。ヒトラー関連のものらしい」
「ヒトラー!……ははあ、フランスに攻めてきたからか?」
「まあ、そうだろうね。彼女の祖先もずいぶん殺されたらしい」

フランスではよく知られている予言で、ヒトラー関連のものがいくつかあるという。ノストラダムスはヒトラー登場の400年も前にその出現を予言していたというのだ。名前も「ヒスター」と書いているらしい。(ヒスターは人名ではなく地名だとする説もある)
以下、BBから聞いた話によれば……

あるとき、ナチスドイツの宣伝相ゲッペルスの奥さんがノストラダムスの予言に興味を持った。彼女は「これはヒトラー台頭の予言にまちがいない」と信じ、ゲッペルスにそのことを伝えた。しかし残念なことに、第三帝国の発展は予言のどこを探しても見当たらない。そこでゲッペルスは「でっち上げの予言」を創作し、しかもあろうことか、それを数千枚のチラシにしてフランス上空でばらまいたという。

「驚いたな。そんなことまでやったのか」
「そのチラシがBBの実家に保管されてるらしい」

それには「ノストラダムスの予言」として「ドイツが勝利する」ことと「その結果、フランス南東部は分割される」と書いてあるという。戦時中とはいえよくもまあこんな恥知らずな作戦を思いついたものだと感心する。

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余談ついでに、ノストラダムスの予言でこんなのがある。
「空で戦いが行われる。なかば人間、なかばブタ」

「あっ、それでブタにしたのか!」と思ったのは私だけだろうか。しかしこれは一人の娘をめぐって、人間とブタが飛行艇で一騎討ちをする牧歌的空中戦シーンの話ではない。
BBによれば、ノストラダムスの予言には、ヒトラーの登場、ドイツ軍の破竹の進撃、ヨーロッパ全土が戦火の海……このあたりの詩がずいぶんあるらしい。彼はその大戦における空襲をまざまざと見ていたのかもしれない。爆撃機パイロットの姿、酸素マスク、ヘルメット、防風ゴーグル……この不気味な姿が「なかば人間、なかばブタ」という奇怪な表現となったのかもしれない。

……………………………………    【 つづく 】

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