【 その正体はカラス 】
このところ魔談は関西づいている。「京都のロウソク」(京都タワー)を語ったからには、お隣の大阪にも目を向けて「もうかりまっかのビリケンタワー」(通天閣)を語らないわけにはいかない。そんなわけで前回は「通天閣」を語った。さてその大阪には、いまひとつ「おもろい塔」がある。「太陽の塔」である。
まあこの塔ほど設計・建築段階であれこれ言われ、EXPO’70(大阪万博/1970年)開催中もあれこれ言われ、その後万博も終了し、岡本太郎も他界し、なおあれこれ言われ続けている塔も珍しい。
現在は観光客が気軽に登れるわけでもなく(完全予約制・人数制限)、地元大阪にとっては「もうかる」どころか「これから先、維持にどんだけお金がかかるねん」という頭の痛い存在となりつつある芸術作品である。
しかし朗報もある。2020年、つまり万博開催からなんと50年も経過して、ようやく国はこの塔を(明治時代の建物ばかりに目を向けている)「登録有形文化財」に指定した。大阪は「これで(国から)カネが出る」と大いにホッとしたことだろう。
さてその「太陽の塔」。Wikipediaの解説がまた笑える。「その正体はカラス」。
「幽霊の正体見たり」ではないが、建築物の解説でいきなり「その正体は……」といった表現が出てくるところが、まさに「太陽の塔」である。
正体があるからには、普段の姿は「仮の姿」に違いない。この塔の場合は「仮の姿」というよりも「仮面の姿」というべきだろう。なにしろ4つも仮面を持っている。なかなか一筋縄ではいかない奇怪な多面塔なんである。
この塔の背後には岡本太郎という黒幕、ではなく芸術家がいることでもあり、とても1回では語れない。魔談では数回にわたり「太陽の塔」と岡本太郎を語ろうと思う。今回はこの「4つの顔」について語りたい。
【 第1の顔 】
頭頂部にある円形・黄金の顔。未来を表現している。日が暮れると目がひかる。なかなか不気味な塔となる。
エヴァンゲリオンの「使徒」と言えば、多くのアニメファンは即座にその不気味なルックスを想像するに違いない。じつは私は初めてテレビ画面で「使徒」を見た瞬間に「はて?……この奇怪な雰囲気はどこかで見たような?」と奇妙に思い、しばらくその世界に没頭して「使徒」を眺めている間に、突然「太陽の塔」を思い出した。
【 第2の顔 】
塔の腹部(胸部という説もある)にある顔。眉間にグッと深いシワを刻み、どこか不機嫌そうに見える。現在を示している。岡本太郎はこの顔に一番こだわったと伝えられている。「この表情こそが万博に対する岡本太郎の顔だ」と書いている記事を読んで笑った記憶がある。
【 第3の顔 】
塔の背面にある。無表情で黒い顔。過去を示している。この「背中に貼りついている不気味な無表情の顔」こそが、わたくし的には最も魔談的(笑)で気に入っている。それにしても過去がなんでこんなに暗いのか。「人類の歴史など黒歴史だ」と言わんばかりだ。
【 第4の顔 】
さて問題なのは、この4番目の顔である。
ある程度「太陽の塔」を知っている人も「えっ、4番目の顔?……そんなのあったっけ?」と思うかもしれない。じつは地面から上にあるのではない。地下にある。「太陽の塔」の地下展示室にあるのだ。いや正確には「あった」と表現すべきか。
というのも万博終了後の解体やらなんやらの間に行方不明になったというのだ。見たことがある人なら「そんなバカな。あんな大きなものが」と絶句するような作品である。それが行方不明!……いったいどんな解体工事をしたのかと言いたくなるような奇怪な事件だ。
ともあれ第1から第3まで未来・現在・過去と来て、地下の第4はなにを表現しているのか。「祈り」と言われている。「草葉の陰から」ではないが、なんで「祈り」が地下からなのか。しかも行方不明とあっては墓が盗まれたようなものだ。
(現在は再現作品!が地下に展示されている)
***
このように「太陽の塔」仮面は4つもあるのだが、その正体はカラス。これがまたなにを意味するのかよくわからない。次回までになにかわかったら、魔談で語りたいと思う。
ふと気になるのは、岡本太郎のような関東人(彼は神奈川県出身である)が大阪のイベントでこんな奇妙な塔を建てたことを、大阪人はどのように見るのだろうか。「オモロイ/オモロナイ」という観点から見れば、大いにオモロイに違いない。しかしたぶん、大阪万博の会場設計者たちにとっては、「厄介千万な芸術家が出てきたぞ」というのが本音だったに違いない。
事実、岡本太郎は万博テーマ「人類の進歩と調和」が気に入らなかったらしい。会場設計関係者と度々衝突し、「人類は進歩などしていない」と言ったそうである。いかにも岡本太郎らしい発言だ。いかに科学が進歩したとしても、その背後にある人類の本質は進歩などしていないと彼は言いたかったのかもしれない。
さてそのようなわけで、次回の魔談ではこの奇怪な塔の黒幕・岡本太郎を語ろうと思う。
* つづく *
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