亡くなった映画人ジャン=ルイ・トランティニャンとジャン=リュック・ゴダール

6月にジャン=ルイ・トランティニャン、9月にジャン=リュック・ゴダール監督が亡くなった。二人ともフランス人で91歳の同い年だった。

男と女

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トランティニャンの代表作は勿論「男と女」(1966年)。シンプルなラブストーリーだが、映像派監督クロード・ルルーシュの面目躍如たるキレのある映像と、あの一度聴いたら忘れられない、♪ダバダ、ダバダバダ ダバダバダ♪の主題曲が見事な映画であった。もう、理屈抜きに好きな映画だ。
数年前、続編である「男と女 人生最良の日々」を見た時、彼が老けたなあと思った。主人公が年を取り施設に入っており、相方のアヌーク・エーメが訪ねていくというストーリーだった。彼女はパリで花屋を経営していて、少しも衰えていず元気。トランティニャンは、すっかり好々爺になっていて、最近の映画ではやや気難しい老人の役ばかりだったのでかえって好感を抱いたほどだった。

トランティニャンの、もう一本の秀作が1973年の「離愁」だ。今度U-NEXTで見たが、今まで見なかったのが悔やまれる、第二次世界大戦が舞台の素晴らしい作品。原題は「Le Train」で単純に「列車」の意味だ。

「離愁」監督:ピエール・グラニエ=ドフェール

「離愁」監督:ピエール・グラニエ=ドフェール

ナチの進撃が始まり、フランス北東に住むある家族が南西の港町ラ・ロッシェルに列車に乗って避難していく。主人公であるトランティニャンは、妻とは別の貨物車両に乗るが、そこで一人の女性(ロミー・シュナイダー)と知り合う。
数日、空襲を受けながらも列車の旅を続けるうちに二人は心を通わせていく。段々分かってくるが、ロミー・シュナイダーはドイツ人で、しかもナチから逃げるユダヤ人なのだ。
この映画は前半と後半でタッチが見事に違う。前半は、貨物列車に乗り合わせた人たちの様々な人間模様が描かれる。これぞ、フランスというか、列車の中でセックスの行為まで行うことになり、それがまた、自然で人間的だと思う。
2人が運命の波に飲み込まれる後半の展開には引き付けられ、ラストの哀切さにはもう言葉がない。トランティニャンの作品で一番好きだというだけでなく、ロミー・シュナイダーの最高作ではなかろうか。

さて、正直に言うと、ゴダール映画は苦手である(スミマセン)。意識的・本格的に映画を見始め1980年代の初め、1958年の「勝手にしやがれ」を有楽町の映画館で観たのだが、ピンと来なかった。この映画、カメラが街に出て、リアルに風景や普通の人物を描き、編集も、ブツブツ切れていて「革命」だと言われるのだが、そんな映画は、当たり前のようにたくさん見ていたから、「えっ、これ、どこがいいの?」と思い、新鮮味を感じられなかった。
また、当時の新作の「パッション」というのを見ても難解でよく分からず、ゴダールは食わずぎらいになってしまったのだ。数年前、もう一度、大きなスクリーンで「勝手にしやがれ」「気狂いピエロ」を見直したが、やはり同じ感想だった。同じヌーベル・ヴァーグでもトリュフォー、ロメール、リヴェット等は好きなので、ゴダールとは単に相性が悪いのだと思う。

ゴダールの死の報道を聞いて、関心を持ったのはその亡くなり方であった。「自殺幇助(ほうじょ)」で亡くなったというのである。
この「自殺幇助」というのは、スイスにあるNPO団体が尊厳死をサポートしたということだろう。その援助はフランスでは違法なので、尊厳死を願う者はスイスに行って実行するのだ。

「母の身終い」監督:ステファヌ・ブリゼ 出演:バンサン・ランドン エレーヌ・バンサン他

「母の身終い」監督:ステファヌ・ブリゼ 出演:バンサン・ランドン エレーヌ・バンサン他

好きな映画をもう一本! この尊厳死を描いたのが2013年公開のフランス映画「母の身終い」である。地方都市に住む中年男性(ヴァンサン・ラッセル)の80代ほどの母親が治らぬ脳腫瘍にかかり、突然意識が無くなって死ぬよりも尊厳死の方がいいと考え、手続きをして、息子と車で死を迎えにスイスに出かける。
息子はムショ帰りの中年独身で、今は定職もない。母親が尊厳死を選ぶのはそんな息子でも余計な迷惑を掛けたくないという思いからだろう。彼女は限られた日々を淡々と家事をこなし、林檎の皮を剥いてジャムを作ることに費やす。
安楽死の場所は小さな普通の民家である。これには驚く。着くとすぐに母親はベッドに横たわり、息子はその横に座る。係の女性から与えられた3種類の薬を飲み、寝ている間にあっけなく亡くなっていく。二人は淡々として感情を抑えているが、死の直前に一瞬だけ互いの感情がほとばしる。そこに胸うたれる。
映画は敢えて多くを描いていない。観客自らが受け止めて考えてほしいのだろう。

(by 新村豊三)

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