今回は見ごたえのある日本映画2本を紹介したい。
コンスタントに映画を撮り続ける阪本順治監督の新作「せかいのおきく」は、監督初めてのモノクロ、しかも初めての時代劇だ。
異色の時代劇である。江戸の糞尿を集めて運んで収入を得る二人の若者(池松壮亮、寛一郎)の労働や、長屋で暮らす町人や貧乏武士の父娘(佐藤浩市、黒木華)の生活が描かれる。排泄行為、排泄物の処理などをリアルに描いているからこそ、遠い世界でない、同じ生活をしている人たちとして、江戸の人物たちが身近に感じられた。新鮮でユニークな江戸の描き方だ。
ファーストシーンの、画面左上、川の上でカモが水面を移動するショットから、渋いいぶし銀のような映像が続く。叩きつける雨の中、主人公3人がお寺の外の厠の軒先で雨宿りして出会うシーンの、3人並んだ構図もとてもいい。
静かに淡々と話が進むが故に、黒木演じるおきくの父親が同僚の武士に呼ばれ、おきくがそれを追った後の林の中のショットは思わず息を吞むほど衝撃的であった。父は背中を斬られ地面に横たわり、奥にはおきくが座り込み、首に手をあててハアハアと荒い息を立てる。その後、父親が、息絶えるところを上から捉えたカメラもいい。時代劇なら激しい殺陣を期待するところだが、殺陣を省略した演出は真に素晴らしい。
作品は章立てされ、それぞれに題が付く。章の終わりには突然わずかの間だけカラーとなるのも面白い。終盤のある章では、おきくが、忠次に好意を抱くようになってきて、筆で半紙に「ちゅうじ」と書く。するとカラーになり、父親の位牌がコトっと後ろに倒れ、おきくも「あら、私ったら恥ずかしい」とばかり、後ろにひっくり返り、照れて笑う。そこの演技がとてもいい。
惜しむらくは、おきくと忠次の恋の展開に、もう一押しが欲しかった点だ。雪降る日、忠次が愛を伝えた後の展開が、若干、淡すぎるような印象を持つ。しかし、モノクロの美しい画面を堪能し、江戸の世界に生きる人たちの生活や様々な想いを味わうことが出来た。
次は「THE FIRST SLAM DUNK」。昨年末公開されおり今頃見たのだが、相当な傑作だった。日本のアニメをまた前進させたのではないか。何にも知らなかったが、「少年ジャンプ」に連載された全30巻ほどの原作漫画は27年前に終わっていて、今回、原作者の井上雄彦が映画のシナリオを書き監督もした。
高校生のバスケットボールチームがインターハイ全国大会決勝で戦うストーリーだ。無名だった神奈川県代表の湘北高校が、大会3連覇の強豪秋田の山王高校と対戦するが、試合の描写と共に、湘北高校主要メンバーの生い立ち、人生が回想形式で差し込まれる。2時間強の時間の制約の為だろう、主に語られるのは、沖縄出身背番号7番の宮城リョータ。
ファーストシーンは沖縄。外で、リョータと彼の兄がバスケの練習をしているシーンだ。動きも滑らかだ。ボールも本物のボールのようだ。海に近く、岸辺を洗う波は本物の波のような質感がある。情景がしっかり描き込まれ、アニメなのに、地に足のついたリアルさがある。そこがいい。
このアニメがいいのは、バスケの試合そのものが面白く、その描き方が素晴らしいだけでなく(カメラワーク、動と静の対比)、少年たちの成長物語になっている点だ。ある事情で、リョータは母親と妹と神奈川にやってくる。その、ある事情とは見ていただくこととして、母親もリョータも、最後に、その事情を受け入れて前向きに生きて行くことになる。
「地に足が付いたリアルさ」といったが、勿論、アニメゆえ、バスケの試合の最中に、ちょっと超人的というか並みの高校生では出来ないことも出て来るが、まあ、それは、ギリギリ許せる。そしてそれが面白いのだ。
たまたま見に行った劇場がそうだったのか、毎回そうなのか、轟音上映ということで、ここぞと言う時にガンガンとロックのような音楽が流れる。ロック嫌いな私でさえも、ノリノリで、ぐわわあと盛り上がってしまった。場内満席、9割が何故か若い女性!なんだかイベント会場のようであった。
難点(?)は、私のように予備知識全くない者が見ると、若干人物が、これ誰だろうと混乱するのではないか。何せ、同じ人物がロン毛になったり、短髪になったりするのだから。
ネットで知ったが、実は、漫画の方の主人公は宮城リョータではない。別のメンバーだ。これまた面白い映画の戦略だ。
(by 新村豊三)