先週最終回を迎えた短編「栞の木」は、某出版社のショートショートコンテストに応募し、優秀作(入選の下)になった作品です。入選作は出版社のwebサイトに掲載されますが優秀作は掲載されず、でも選評はつくので、せっかくなので選評を参考に書き直し、ホテル暴風雨で連載させていただきました。
前々から、「栞」というモノが気になっていました。本に挟んで目印にするというだけのモノですが、意外と他のものでは代わりがきかない。本編にも書いたように、最近のレシートはやたらに大きい。割り箸の袋は割り箸の跡がついて膨らんでいるので収まりが悪い。ハガキや名刺は大きすぎる。
では栞として流通しているものなら全てOKかというとそうもいかない。
特に、観光地のお土産として売っているような、木や金属でできた小洒落た栞、あれはだめです。ああいうものが栞の用をなしたことは一度もありません。
一番いいのは、本屋のレジに置いてある広告入りの無料の栞です。厚さ、大きさ、重さ、どれをとっても具合がいいのですが、そういうのに限ってすぐにどこかへ行ってしまいます。
ことほど左様に、理想の栞には出会いがたく、たとえ出会えたとしてもそれを自分のものとして持ち続けるのは難しいことであると申せましょう。
……と、そんなことを考えていたのが、このお話ができるきっかけの一つになりました。
一般社会から隔絶した秘境を訪ねて、常識では考えられない異様な体験をする、というのは物語の類型の一つですが、現代日本においてはそのようなシチュエーションはリアリティを感じにくくなっています。ですのでコンテストに応募した稿では、そのような物語の型をパロディ化するつもりで書き、主人公2人がその物語の型から逃げ出すというラストにしました。
ところが選評では、そのラストが「軽い」と評されました。そこで今回の連載では、ラストを大きく変えました。
どちらが良かったのかはわかりません。読者の好みによっても分かれると思います。
主人公が訪ねるY町のモデルというわけでもないですが、遠さや地形の参考としてイメージしたのは、福島県会津地方にある柳津町という町です。
木版画家の斎藤清が晩年住んだ土地で、彼の作品を収蔵、展示する斎藤清美術館があり、また「赤べこ」の発祥の地でもあります。最初は美術館目当てに行ったのですが、美しい風景と人々の温かさがすっかり好きになり、同じ年のうちにもう一度行きました。
温泉町でもあり、東京からの小旅行におすすめです。
(by 芳納珪)
【会期】11月19日(木)~12月1日(火) 【会場】ギャラリー路草(池袋)
詳しくは<特設ページ>をご覧ください。