シンメ通りとジョアン通りの間にある”十六番街”。
この場所はいつも、どことなく落ち着かない顔の生き物たちであふれている。
彼らはみな、答えを求めてやって来た者たちだ。
”十六番街”は、占い地区なのである。
古びたアーケードを支える四角い柱のそれぞれの辺に四つずつ、つまり、ひとつの柱に対して合計十六の店がある。
それが、”十六番街”の名前の由来だ。
柱の周りに十六も店があるなんて、とても狭苦しいようだが、占い師は全員どぶねずみ、そして店といっても白布をかけたテーブル一台なので、見た目はスッキリしている。
しかし、占い師たちはそれでよくても、客の方はそうはいかない。このトキ市に暮らす生き物は大抵どぶねずみより大きいので、すべての店の前に同時に客が来たら、となりの客とぎゅうぎゅう押し合いになって、占いどころではなくなってしまう。
そのため、占い師と客とのやりとりは、糸電話で行われる。柱から一定の距離に、ビールケースを重ねた台があり、紙コップが置いてある。それを使って会話するのだ。
私はジョーに言われたとおり、シンメ通りに一番近い柱の、東の辺の右から二番目の占い師の糸電話に並んだ。
長いこと待って、やっと順番が巡って来た。私は紙コップに話しかけた。
「ある人の行方を探している。手がかりは写真だけだ」
「前払いだよ」占い師はキーキーと言った。「下にカゴがある。料金と一緒にその写真を入れてくれ」
台になっているビールケースの向こう側を見ると、糸電話の糸とは別に、ロープが占い師のテーブルまで伸びていた。ロープには、お菓子の空き缶が針金で取り付けられている。
私は、空き缶に銀貨と写真を入れ、ハンドルを回した。
ロープがスルスルと動いて、空き缶を占い師の元へ運んだ。誰が作ったのか知らないが、よくできている。
占い師はテーブルによじ登って缶の中に入ると、銀貨を抱えてテーブルの下に潜った。
まさか持ち逃げされたのでは、と不安になってきたころ、占い師がひょこっと顔を出した。きょろきょろとあたりを見回し、もう一度、しゅるっと缶の中に入る。
それからしばらくの間、占い師は写真の上で鼻と口をせわしなく動かしていた。
「フロメラ・フラニカ」
糸電話がキーキーと告げた。
「なんだい、それは?」
「意味はわからんよ。写真から読みとれた残留思念はそれだけさ」
なるほど。この占い師には、そういう能力があるのか。
占い師は、話は終わったとばかりに、テーブルの下から穴のあいたチーズを取り出して、はむはむと食べ始めた。
私はハンドルを逆に回して、写真をとり戻した。
アーケードを出て見上げると、街塔の隙間から十六夜の月が見えた。
今日の仕事はここまでだ。
(第四話に続く)
☆ ☆ ☆ ☆
※ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・漫画・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内> <公式 Twitter>