〈赤ワシ探偵シリーズ1〉フロメラ・フラニカ 第五話「帝立図書館 その1」

挿絵:服部奈々子

挿絵:服部奈々子

帝立図書館は、その名の通り、皇帝がいた時代に作られた。
だから、ずいぶんと下の階層にある。

私は、街塔の外側についているエレベーターの駅へ行き、下り線に乗った。乗り合わせたのは、ウサギの老婆と、穴熊の母娘だ。
途中ですれ違った上りのカゴは、すいているこちらと違って通勤ラッシュだった。カゴの中には、頭が鳥や魚や獣の半人たちがぎゅうぎゅうに詰まっている。
原地球人は、見えた限りではひとりも乗っていなかった。もともと彼らは、人口が少ないのだ。
だから、依頼人の水星人が探している彼の妻が、もし街を歩いていたりすれば、とても目立つだろう。

昨日、探偵社の前に脱水症状で倒れていた水星人を見つけた私は、応急処置で水をかけたあと、危険な状態の彼を医者へ運んだ。もちろん、私が鳥型に変身して、彼を鉤爪でつかんで飛んだのだ。
医者へ到着して意識を失う直前、彼は妻の写真と前金を差し出し、「頼む」と言った。
つまり私は、尋ね人の名前すら聞いていない。しかし、依頼は受けてしまったのだ。

図書館のある階に到着した。他の乗客は手前の駅で降りて行ったので、私ひとりになっていた。
この階層になると、空はほとんど見えない。暗い通りには、常に街灯がともっている。
古めかしい石畳をひとり歩く自分の足音が、あたりに響く。

カツーン、カツーン。

私は立ち止まった。足音もやむ。
振り向いた。誰もいない。

……気のせいか。

帝立図書館の、重々しい扉の前に来た。
私はポケットからガラス瓶を取り出した。

「着いたか」
「ついたか」
「ツイタカ」

相変わらず落ち着きのない紙魚たちに向かって、私は噛んで含めるように言い聞かせた。

「いつも言っていることだが、決してここの書物を食うんじゃないぞ。公共の財産だからな」

すると彼らは、ちょっと憤慨したように触覚を振った。

「言われなくてもわかっているさ」
「俺たちは文化的だからな」
「匂いを嗅ぐだけで眼福……いや鼻福だ」

「ようし。では、これもわかっているだろうが、ここには『やつら』がいる。くれぐれも気をつけてくれ」

私がそう言うと、紙魚たちは、おう、と鬨の声をあげた。
まったく、頼もしい連中だ。

(第六話に続く)

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