〈赤ワシ探偵シリーズ1〉フロメラ・フラニカ第十二話「アマト・エース」

長い通路を歩かされた。前後左右には、コップ型ロボットがぴったりとついている。
通路は狭く、天井は低く、配管が何本も通っている。

どれくらい歩いただろうか。
先頭のロボットが、通路の壁にあるドアを開けた。
明るい部屋だった。

広さはわからない。おびただしい数の機械やら、パイプやら、透明なケースやらが視界を埋め尽くしているからだ。
機械は小さな光を明滅させ、パイプには液体がコポコポと流れている。
そしてケースの中には、小さな皿のようなものがたくさん並んでいた。

私は相変わらずロボットたちに囲まれて、それらのものたちの間を、縫うように進んでいった。
大きな機械に向かって何かをしている人物の後ろ姿が見えた。
痩せて背が高く、白衣を着ている。
ロボットが一台、すうっとその人物の元へ行った。

白衣の人物はふり向いた。
混じり気のない、原地球人の男だ。
そこそこ高齢のようだが、背筋はピンと伸び、目には理知的な輝きがある。

「はじめまして。私は赤ワシ探偵です。ある人を探してここまで来ました」

私は礼儀として、挨拶と自己紹介をした。
しかし、男は挨拶を返してこない。無言で目を見開いて、穴のあくほど私の顔を見つめるばかりだ。

「……赤ワシか……なんと力強く、美しい……」

私はムッとした。なんだ、この男は。
すると男は、私の表情に気づいて、態度をあらためた。

「いや、失礼した。私はアマト・エース。科学者だ。人を探していると?」
「はい。あなたと同じ、原地球人の女性です」
「花恵さんか」
「そうです! やはり、ここにいるのですな。会わせていただきたいのですが」

アマト・エースは、しばらく考えこんだあと、ふたたび口を開いた。

「彼女が学生だった時、私の研究を手伝ってもらったことがあった。同じ原地球人として親しみを覚えていたし、溌剌とした、とてもいい娘さんだった。だから先日彼女がここへ来たとき、そのやつれ果てた姿に驚いた。彼女は人生に絶望して、弱りきっていた。なんとかしてやりたいと思った」

私は、レオネが言っていたことを思い出した。花恵は親の都合で、無理やり成金の水星人と結婚させられたと。不本意な結婚生活は、それほどまでに花恵の心身を蝕んでいたのか。
アマト・エースは、やつれ果てながらも彼を頼ってやってきた花恵を受け入れてやったのだ。ひょっとすると、アマト・エースは医者でもあるのだろうか。

いや、待てよ。

原地球人も診ることができる医者なら地上にもいる。いくら水星人から離れたかったとはいえ、こんな定期便もない軌道上のコロニーまで来ることはないのではないか。

そこまで考えたとき、アマト・エースがこれまでと違う口調で言った。

「きみは、『花』を見たことがあるかね?」

いきなり何の話だ? まともに見えたが、やっぱりこいつはマッド・サイエンティストなのか。
私は、相手を刺激しないように平静を装って答えた。

「花模様の花か?」
「そうだ。だが、それの元になったものを見たことはないはずだ」
「……」
「私は、遠い昔に一度だけ見たことがある。とてもはかなくて、美しいものだ。それ、そこのケースの中にあるのは、いわば『花』の子どもだ。ちょうど、種から芽が出たところだ。その子たちが成長して『花』になるんだ」

そう言われて、私はケースをのぞきこんだ。実は、さっきから気になっていたのだ。
整然と並んだ小さな皿の一つ一つから、柔らかそうな緑色の細いものが生えている。それらは、精一杯、上に伸びようとしているように思えた。
そのみずみずしい生命力に、私は目を奪われた。初めて見るものなのに、とても懐かしい感じがした。

「これは……サボテンみたいなものか?」
「ほう。きみはサボテンが好きなのか」
「ああ。私の事務所の中はサボテンだらけだ」
「それはいい。来なさい」

挿絵:服部奈々子

挿絵:服部奈々子

アマト・エースは、背を向けて歩き出した。
その後ろについていくと、ロボットたちもぞろぞろついてくる。
いくつかの角を曲がったところで、アマト・エースは立ち止まった。
彼の白衣の背中が横に退くと、また透明ケースがあった。

「これが、ほんものの『花』だ」

科学者は、自慢の我が子を紹介するように言った。

私は思わず感嘆のため息を漏らした。
そこには、サボテンのように鉢に植わった、しかし硬い棘もなく、触れたら折れてしまいそうに細い、コードのようなものがあった。
そして、そのてっぺんに、あの写真の花恵が着ていたドレスの模様がついていた。
……ただし、こちらの方が数百倍、いや数万倍も美しい。

「気に入ったかね。では、もっと驚くものを見せてあげよう」

アマト・エースはますます気を良くしたようで、大股に歩いて壁に近づいた。
私がそこに行くと、彼は扉を開けた。

その向こうに現れた光景に、私は今度こそ、言葉を失った。

(第十三話に続く)

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