〈赤ワシ探偵シリーズ2〉ニフェ・アテス第二十一話「アレキセイの秘密」

「発掘現場の作業員にも、休日はあります。宿舎は現場の近くにありますが、休みの日になると、たいていみんな現場専用のエレベーターに乗って、上層階に遊びや買い物に出かけます」
アレキセイは階段を降り続けながら話した。
「……だけど、ぼくは休みのたびに、他の人とは逆方向、下層に探検に出かけました。もちろん、父が研究していた『ニフェ・アテスの四角石』とその再生装置を探すためです。
危険な目にあうこともあったけど、少しずついろんな経験を積み重ねていって、下層の構造にだいぶくわしくなりました」
「なるほど、きみがいろいろ知っているのはそういうわけだったのか」
「それもありますけど。……再生装置の最初の候補地である50階は崩落がひどくて進めなかったので、下の25階を目指しました。その途中で、出会ったんです」

アレキセイがちょっと言葉を切ったので、私は先を促した。
「何に会ったんだね?」

彼はまた私を見上げて、ちょっぴりはにかんだような表情を見せた。
「友だちに」

私の訝しむ顔を見て、彼は続けた。

「くわしいことはまだ言わないでおきますけど、とにかくぼくたちは出会って、友だちになったんです。その友だちが、下層世界のことをいろいろ教えてくれました。そして、四角石をくれたんです」

「くれた、だって?」

「そうです。ぼくも本当に驚きました。だって石には、父さんが一生かかって追い求めた『ニフェ・アテス』の文字が刻印されていたんですから。信じられない気持ちで、宿舎に持って帰りました。どこかに隠しておくことも考えたんですが、手元から離したくありませんでした。それがいけなかったんです。……ちょうどその日に、抜き打ちの荷物検査があって、四角石は取り上げられてしまいました。発掘した出土品をこっそり持ち出そうとしたと思われたんです。そりゃそうですよね。下層世界に住む友だちがくれたなんて言っても、信じてもらえるわけがありません」

そこでアレキセイは悔しそうに唇を噛んだ。

「ぼくは仕事をクビになりました。だけど、四角石はどうしても取り戻さなければならなかった。それで、保管室に忍び込んで持ってきたんです。その結果、父さんに最後に四角石を見せることができて、本当に良かったと思っています。あとは、四角石に記録されている『ニフェ・アテス』をよみがえらせれば、父さんの研究は完成します。友だちは、25階にも再生装置はないと言いました。それは、彼らの住む場所にしかないと」
「我々は今、その友だちの住処に向かっているということか。しかし、そんな秘密を私に話していいのかい?」

アレキセイはにっこりとほほえんだ。

「『ニフェ・アテスを聴いてみたい』とおっしゃったでしょう? あのとき、信用できる人だと思ったんです。だけど、友だちに会わせていいかどうかは、向こうに着いたら訊いてみますね」

発光キノコがまた増えてきた。前のとは種類が違うのか、光の色は青ではなく暖かな黄色である。そのおかげでか、崩れ落ちた廃墟もどことなく懐かしい光景に見える。高度計を見ると、9階だった。

「この階です。ここで待っていてください」
そう言って、アレキセイはキノコが照らす通路を進んで行った。姿が見えなくなってしばらく経ってから、むせび泣くようなブルースハープの音色が流れてきた。

挿絵:服部奈々子

挿絵:服部奈々子

(第二十二話へ続く)

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