「森の時計」
お昼ごはんが終わっても、なかなか午後になりませんでした。何がどうというのではないですけれど、時間が止まってしまったようなのです。
ウサギが森の時計を見に行くと、時計当番のキツネのすがたが見えず、時計の上に、いつもは木の上にいるトカゲが乗っていました。
ウサギは、できるだけていねいにトカゲにお願いしました。
「あのう、そこをどいていただけませんか? 時計を逆さにしないと、森の時間が止まったままなんです」
「ああ、すみません。木の上からうっかり落ちてしまいました。体があたたまるまで動くことができません」
トカゲは、たいへんもうしわけなさそうに答えました。
そこへ、時計当番のキツネが帰ってきました。キツネはトカゲを見て、ぷりぷり怒り出しました。
「なんでそんなところにいるんだ。はやくおりてくれ」
「キツネさんが時計のそばからはなれたのがいけないんじゃないですか。どこに行ってたんですか」
ウサギがキツネをいさめました。
「どこに行ってたって、ひるめしをたべに帰っていたに決まってるだろう。おれのかみさんが作る料理は絶品なんだぞ」
そう言って胸をそらすキツネを見て、ウサギはあきれてため息をつきました。
「当番はずっと時計のそばにいないといけないんだから、お弁当を持ってくるものなんです。しかし、こうなってはしかたない。トカゲさんが動けるようになるまで待ちましょう」
そのあと一時間ぐらいたって(といっても、時間が止まっているので、一時間ぐらいのような気がする、という意味ですけれど)トカゲの体があたたまり、動けるようになりました。
トカゲは、すみませんすみませんとあやまりながら、時計の上からおりました。
それから三人で協力して、時計を逆さにしました。
時計の砂がサラサラと落ち始めると、森の時間が動き出しました。
その日は、おやつも日暮れも夕ごはんも、いつもよりおそくなりました。みんな、今日はやたらにおなかがすくなあと思いましたけれど、時間が止まっていたことに気づいた人はほとんどいませんでした。
そんなことが起きるなんて、ふつうは考えませんからね。
(版画・服部奈々子/おはなし・芳納珪)
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