版画とちいさなおはなし(24)

「水辺にて」

公園でぼんやり池を眺めていると、向こう岸をゴイサギが歩いているのが見えた。 私はそれが似非鳥(えせどり)であると気づいた。他の鳥を見るとそっくりに姿を変える鳥だ。

ゴイサギが立ち止まってこちらを見た。 私も見返した。
しばらくするとゴイサギは、興味を失ったように目をそらして歩き出した。

私は池の上に身を乗り出した。つやつやしたカラスが水面に映っている。私も似非鳥なのだ。似非鳥は似非鳥を見ても姿を変えない。だから、お互いに見つめ合っても何も起きなかった。

こんなときは、何もなかったことにするのがマナーである。

(版画・服部奈々子/おはなし・芳納珪)

☆     ☆     ☆     ☆

ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・漫画・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内> <公式 Twitter