作家の秘密

作家というのはおはなしを作る人だと思っていませんか?
じつはちょっと違うのです。作家は自分でお話を作るのではありません。おはなしの国に行って、もらってくるのです。

おはなしの国がどこにあるかは、作家なかまの大事な秘密なので、くわしくは教えられませんが、地下にあるということまでは言ってもかまわないでしょう。
作家だけが知っている秘密の道をとおり、らせん階段のようなトンネルをえんえん下り、目の前にぽっかり明るい世界がひらけたら、そこがおはなしの国なのです。

おはなしの国にはおはなしの木がはえています。ふつうの木とは反対に、上から下にはえているのですが、それには深いわけがあります。
大昔から今日までずっと、地上では毎日いろいろなことが起きて、たくさんの人が喜んだり悲しんだりしています。その嬉しい気持ちや悲しい気持ちは、しばらく空中でふわふわしていたあと、ゆっくり下りてきて、じんわり地面にしみていきます。
おはなしの木は、そのたくさんの「気持ち」をすいとって育ち、おはなしの実をつけるのです。

おはなしの実は小さいのでナツミカンくらい、大きいのでスイカくらい、つるりとして、いい香りがします。ひんやりした皮におでこをつけ、そっと耳をすますと、小人がささやくような声で、おはなしが聞こえてきます。
やっかいなのは、実によって、面白いおはなしが入っていたり、つまらないおはなしが入っていたりすることです。大きな実だからいいおはなしとは限りません。

ひとりの作家が一度にとれる実はひとつきりですが、せっかくおはなしの国まできて、つまらないおはなしを持って帰るのはつらいことです。
それがいやな作家は、おはなしの泉に寄り道します。
泉のふちに立ち、つまらないおはなしの実を水の中に投げこみます。すると、おはなしの泉の精があらわれて、こう言います。

「あなたが落としたのは、すごく面白いおはなしですか、ちょっと面白いおはなしですか、それともとてもつまらないおはなしですか?」

泉の精にうそをつくのは恐ろしいことです。バレたら、おはなし地獄に落ちると言われています。もとの世界には戻れず、来る日も来る日も、とびきり怖いおはなしの世界で、一生をすごすことになるのです。
それでもここで正直にこたえる作家はめったにいません。正直にこたえるくらいなら、はじめから泉に寄らずに帰るでしょう。

「すごくすごく、ものすごく面白いおはなしです。ああ、もう一度あのおはなしが聴けるなら、わたしは命も惜しくないくらいです」

運よくバレなければ、泉の精から面白いおはなしをもらって帰ることができます。ただし、泉の精はそんなにだまされやすくはありません。
わたしの知り合いにも何人か、行方不明の作家がいます。きっと、おはなし地獄に落ちたのです。かわいそうに。作家というのは楽な仕事ではありません。

え? わたしが泉の精にうそをついたことがあるかですか?
……さあ……どうでしょう?


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